AI会計・自動仕訳の限界 ― 人間の判断が必要な5つの領域

FP
水色 シンプル イラスト ビジネス 解説 はてなブログアイキャッチのコピー - 1

クラウド会計ソフトやAI仕訳ツールが急速に普及しています。
領収書を読み取れば自動で勘定科目が提案され、銀行口座やクレジットカードとの連携により記帳作業は大幅に効率化されました。
一方で、税理士・FPの実務現場では「AIの自動処理をそのまま採用してよいのか」という根本的な問いが生まれています。

AI会計は強力なツールですが、「データに現れない判断」を要する領域では限界があるのも事実です。
本稿では、AI仕訳の精度と限界を整理し、専門家として人間が介在すべき5つの領域を明らかにします。


1. 勘定科目の選択 ― 「文脈」を理解できないAI

AI仕訳は取引内容から最も確率の高い勘定科目を提案しますが、その判断は「文脈の理解」を伴いません。
例えば、同じ「Amazonでの購入」でも、以下のように用途が異なります。

  • 事務用品 → 消耗品費
  • 書籍 → 新聞図書費
  • PC部品 → 器具備品(資産計上対象)

AIはテキスト情報から勘定科目を推定しますが、「業種」「使用目的」「経費区分(資産 or 費用)」を総合的に判断できません。
最終判断は、会計の目的と税務上の区分を理解する人間の責任領域に残されています。


2. 減価償却・資産計上の判断

AI仕訳では、一定金額を超える支出を自動で「固定資産」と判定する機能もあります。
しかし、税務上は「使用可能期間」「用途」「取得目的」により資産計上の要否が異なります。
例えば、10万円以下の備品でも、継続利用の有無やリース契約の内容によって処理が変わります。

AIは金額基準しか参照できないため、耐用年数や実態に基づく判断を行うのは人間にしかできません。
とりわけ、青色申告決算書の固定資産台帳管理では、税理士による確認が不可欠です。


3. 補助金・助成金・雑収入の税務区分

AIは入金取引を「雑収入」や「売上」として処理しがちです。
しかし、補助金・助成金には課税・非課税・益金不算入など多様な取り扱いがあり、内容を精査しなければ誤処理になります。

例:

  • 雇用調整助成金 → 事業所得として課税対象
  • 持続化給付金 → 所得税課税対象
  • ものづくり補助金 → 益金不算入(固定資産取得補助金)

AIは文言の一致で処理を行うため、補助金の性質を読み解くことはできません。
税理士の関与により、正しい課税区分を確定する必要があります。


4. 交際費・福利厚生費・会議費の境界判断

AIは支払先や金額で勘定科目を分類しますが、「誰のための支出か」を理解することはできません。
例えば、同じ飲食代でも次のように区分が異なります。

  • 社外との懇親 → 交際費
  • 社員全体への慰労 → 福利厚生費
  • 会議中の軽食 → 会議費

AIは領収書の「店舗名」「金額」だけから分類するため、参加者・目的・頻度といった非定量情報を反映できません。
ここはまさに人間が「合理的な説明ができる分類」を担う領域です。


5. 税務調整・判断留保を要する取引

AI会計では、未払費用・引当金・租税公課の調整など決算時の税務判断を要する処理はサポート対象外です。
また、AIは「判例」「通達」「継続適用の原則」を理解しないため、翌期に繰り越す処理や臨時損益の調整ができません。

税務署はAIによる自動処理の妥当性を最終的に納税者自身の判断とみなします。
したがって、税理士が「AIが提案した仕訳を検証し、根拠を残す」体制を整えることが重要です。


専門家の介在価値 ― 「自動化された透明性」を監査する役割

AIは会計業務を効率化しますが、透明性と説明責任の確保までは代替できません。
税理士やFPは、次の3つの観点でAIを監査する存在になるべきです。

  1. 判断の根拠を文書化する役割
     AIが仕訳提案した背景を分析し、経済合理性を説明できる形で記録する。
  2. 継続的な処理一貫性の監視
     年度ごとに処理基準が変わらないかを確認し、申告書との整合性を保つ。
  3. AI倫理と税務責任の橋渡し
     AIが“学習データの偏り”により誤判定するリスクを理解し、人間の判断で補正する。

つまり、AI時代の税理士・FPは「記帳者」ではなく、“デジタル会計の監督者”としての立場を強化することが求められます。


結論

AI会計は会計事務の標準化を進める一方で、「数値に現れない判断」を要する領域を浮き彫りにしました。
そこには、税務判断・倫理判断・経済合理性判断といった、人間にしかできない意思決定が残されています。

税理士・FPの使命は、AIを敵視することではなく、
AIの自動化が届かない「判断の空白地帯」を正確に埋めることにあります。
AIが数字を整え、人間が意味を与える――それが、会計と倫理が共存するこれからの時代の姿です。


出典

出典:国税庁「電子帳簿保存法Q&A(令和6年改訂)」
日本税理士会連合会「AI会計に関する実務指針(2024)」
財務省「令和8年度税制改正要望」
日本経済新聞(2025年11月3日)「個人輸入の税優遇廃止」関連記事


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

タイトルとURLをコピーしました