非上場株の評価制度は、本来「時価の適正反映」を目的として設けられたものです。
しかし、制度が導入された1960年代から60年が経過し、企業形態や経済構造が大きく変化した現在において、当初の設計思想と実態の乖離が顕著になっています。
近年の「総則6項」適用事例の増加は、制度の想定外の事象が積み重なった結果ともいえます。
今こそ、非上場株の評価制度を抜本的に再設計する必要があります。
制度の現状と限界
財産評価基本通達は、税務行政の円滑化と公平性を目的に整備されてきました。
しかし、非上場株については、通達の形式的な計算方法が実勢価格を十分に反映していないことが問題視されています。
非上場株の多くは中小企業であり、株価を押し上げる市場メカニズムが働きません。
また、事業承継を円滑にする政策意図が評価制度に組み込まれたことで、「負担軽減を優先するあまり、評価の公平性が損なわれる」という指摘もあります。
こうした制度設計上の限界が、総則6項という例外規定に依存せざるを得ない構造を生み出しているのです。
政策誘導型評価から市場反映型評価へ
今後の方向性として重要なのは、「政策誘導型の評価」から「市場実勢を反映する評価」への転換です。
類似業種比準方式の適用範囲を見直し、収益性や資本構成に応じた弾力的な算定方法を導入することが求められます。
また、企業会計上の情報開示が進んだ現在では、財務データをもとに一定の市場価値を推計する手法も実務的に可能です。
こうしたデータを活用した「ハイブリッド評価」への移行が、評価制度の透明性を高める方向性といえるでしょう。
通達の再構築とデジタル化
財産評価基本通達は半世紀以上にわたり、膨大な事例解釈の積み重ねによって運用されてきました。
しかし、実務現場では「通達のどの項目を参照すべきか」「例外規定の適用基準が不明確」といった問題が生じています。
今後は、AI・データ分析の活用を通じて、評価通達をデジタルベースで再構築することが必要です。
国税庁が保有する評価事例や市場データを活用し、実勢との乖離をモニタリングする仕組みを整えることで、評価の客観性と納税者の予見可能性を両立できます。
政策税制の再設計に向けて
事業承継を支援する税制と、資産評価の公正性を保つ仕組みは、もともと別の目的を持つ制度です。
それを同じ枠組みの中で運用してきた結果、評価制度そのものに政策的ゆがみが生じています。
今後は、事業承継支援は補助金・金融支援の仕組みに委ね、評価制度は「市場反映」と「公平課税」の原点に立ち返ることが望まれます。
非上場株の評価は、単なる税務上の算定技術ではなく、資本市場と中小企業政策の接点に位置する制度です。
そのため、税制だけでなく経済産業政策・金融行政と連携した総合的な制度再設計が不可欠です。
結論
非上場株の評価制度をめぐる議論は、単に税額計算の技術的問題ではありません。
これは、「公平な課税」と「経済成長を促す制度設計」の両立をどう実現するかという国家的課題です。
総則6項が“伝家の宝刀”として頻繁に抜かれる現状は、制度の限界を映し出しています。
制度の透明性・中立性・実勢反映性を高めることが、今後の税制改正の鍵になります。
非上場株の評価を、時代に即した形で再構築することこそが、持続可能な税制の第一歩です。
出典
・日本経済新聞「非上場株の相続に課税」(2025年11月3日)
・日本経済新聞「税回避、通達にも要因」(2025年11月3日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
  
  
  
  