2024年10月、雇用保険に新たな制度「教育訓練休暇給付金」が創設されました。
働きながらスキルアップを目指す人が、無給の休暇を取って学び直しに集中する際、一定額の給付を受けられる制度です。
会社を辞めずにリスキリング(学び直し)に専念できる仕組みとして注目が高まっています。
1. 制度の概要と対象者
教育訓練休暇給付金は、雇用保険に5年以上加入している人が対象です。
在職のまま、無給で連続30日以上の教育訓練休暇を取得する場合に、給付を受けられます。
給付日数は加入期間によって異なりますが、最大で150日間支給されます。
給付額は失業給付と同水準で、休暇前6カ月の賃金を基準に算定されます。
原則として賃金の5~8割が支給され、上限は1日あたり7,000~8,000円台(年齢による)。
月額換算でおおよそ26万円前後が目安です。
さらに、資格取得や専門講座の費用を補助する「教育訓練給付金」と併用も可能です。
学費の補助と生活費支援を組み合わせれば、学び直しのハードルが下がる仕組みといえます。
2. 企業の休暇制度が前提条件
この制度を利用するには、勤務先に30日以上の無給休暇制度があることが前提です。
就業規則などに明記されていない場合は、そもそも申請ができません。
また、本人の判断だけでは申請できず、勤務先を通じてハローワークに書類提出が必要です。
厚生労働省の調査では、こうした教育訓練休暇制度を導入している企業は1割未満にとどまっています。
人手不足などを理由に導入をためらう企業も多い一方で、「導入を予定している」と回答した企業も9%あり、今後の普及拡大が期待されています。
3. 利用事例と今後の可能性
銀行員のAさん(30)は、勤務先が導入した「キャリア休職制度」を利用し、3カ月間米国でデジタルマーケティングを学びました。
当時は教育訓練休暇給付金がなかったため、生活費や学費は自己負担でしたが、
「会社を辞めずに学べる制度があることが、リスキリングの後押しになる」と語ります。
リスキリングのニーズは年齢や業種を問わず広がっています。
AI・デジタル分野の再教育や資格取得など、「辞めずに学ぶ」という選択肢が現実的になりつつあります。
4. 注意したい社会保険料と雇用保険の扱い
給付金を受け取っても、休暇中に健康保険料・厚生年金保険料・住民税などの負担が発生する点には注意が必要です。
一部の企業(例:ソニーグループ)は休職中の社会保険料を会社が全額負担していますが、取り扱いは会社によって異なります。
事前に人事担当者へ確認し、「手取りがいくら残るか」を試算しておくことが大切です。
また、この制度を利用すると雇用保険の被保険者期間がリセットされます。
復職後の在籍期間が短いまま退職した場合、失業給付を受けられない可能性があります。
失業給付の仕組みも理解したうえで、制度の活用を検討しましょう。
5. 制度がない職場での対応
教育訓練休暇制度がない職場で働いている場合、
社会保険労務士の佐藤麻衣子氏は「人事部や労働組合に制度導入を働きかけるのも有効」と指摘しています。
意欲ある社員の離職防止策として、企業が制度整備を検討するケースも増えています。
会社と従業員の双方にメリットのある制度として、今後の浸透が期待されます。
結論
教育訓練休暇給付金は、リスキリングを望む人にとって大きな一歩です。
働きながら新たなスキルを身につける選択肢が広がることで、キャリアの持続性が高まります。
一方で、手続きや社会保険料負担などの現実的な課題もあるため、制度内容を十分理解したうえで準備を進めることが大切です。
在職のまま新しい学びに踏み出す――それは、個人の成長だけでなく企業の競争力向上にもつながる取り組みといえるでしょう。
出典
- 厚生労働省「教育訓練休暇給付金制度の概要」(2024年度)
- 日本経済新聞「会社辞めずリスキリング集中」(2024年11月1日付)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
