1️⃣ 「住宅取得資金の贈与」は相続時精算課税の王道
「マイホームを買う子や孫にお金を援助したい」。
そんなとき、住宅取得資金の贈与特例+相続時精算課税の併用が非常に有効です。
通常、相続時精算課税の贈与者は「60歳以上」に限られますが、
住宅取得資金の贈与に限っては、贈与者が60歳未満でも利用可能です。
つまり、50代の親から30代の子へ住宅資金を援助することもOK。
住宅購入を支援しつつ、相続時の資産移転を前倒しで進められる制度です。
2️⃣ 特例が使える人と家の条件
特例を使うには、贈与する人・受ける人・住宅それぞれに要件があります。
💡贈与者の要件
- 贈与者がその年の1月1日時点で60歳未満でも可
- 受贈者の直系尊属(親・祖父母)であること
🧑💼受贈者の要件
- 18歳以上の子または孫
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、住宅の新築・購入・増改築を行う
- その家に実際に居住する(または確実に居住見込み)
🏡住宅の要件
- 床面積が40㎡以上(区分所有なら専有面積)
- 床面積の1/2以上を居住用に使用
- 耐震基準を満たす(築年や証明書による確認)
- リフォームの場合は工事費100万円以上が目安
3️⃣ 非課税枠との組み合わせでさらに節税
住宅取得資金の贈与には、次の2つの制度が併用できます。
| 制度名 | 内容 | 上限額 |
|---|---|---|
| 住宅取得等資金の非課税 | 贈与税をかけずに住宅資金を援助できる | 最大1,000万円(省エネ住宅)/500万円(一般住宅) |
| 相続時精算課税 | 贈与時の特別控除 | 2,500万円+基礎控除110万円 |
たとえば、親から子へ3,000万円を住宅購入資金として贈与した場合:
3,000万円 − 非課税1,000万円 − 基礎控除110万円 − 特別控除1,890万円(残額)= 0円
つまり贈与税ゼロで3,000万円を移転できる計算です。
4️⃣ 居住しなかった場合の「遡及否認」に注意!
せっかく特例を使っても、家を購入した翌年12月31日までに実際に居住していない場合、
「最初から特例を使っていなかったもの」とみなされます。
つまり、「相続時精算課税の特例が取り消され、贈与税が課される」ことになります。
この場合、2カ月以内に修正申告と納税が必要です。
住宅の建設遅延や転勤などでも否認されるケースがあるため、居住時期の証明(住民票など)を忘れずに。
5️⃣ 実務でよくある質問
❓Q1:住宅以外の贈与も特例の対象になりますか?
→ 初年度に住宅取得資金で相続時精算課税を使えば、翌年以降の贈与もすべて対象になります。
つまり、住宅以外の贈与でも相続時精算課税を継続利用できます。
❓Q2:贈与者が複数(父・母)でもOK?
→ それぞれ別に制度を選択できます。父は相続時精算課税、母は暦年課税、という選び方も可能です。
❓Q3:贈与者が亡くなった場合は?
→ 贈与分は相続財産に合算して相続税を計算します。
贈与時の評価額で取り込む点が重要です。
6️⃣ まとめ ― 住宅資金贈与は「相続対策の入口」
住宅取得資金の特例は、親の想いを次世代へつなぐ制度でもあります。
- 住宅資金を渡しながら、相続時の財産圧縮にもつながる
- 相続税の負担を将来見通しながら、家族の生活支援ができる
ただし、制度選択を誤ると「贈与時も相続時も課税される」リスクがあるため、
必ず税理士に相談し、暦年課税との比較シミュレーションを行うことが大切です。
📘 参考資料:
令和7年度第14回会員研修会「相続対策としての生前贈与について注意すべき点」
(講師:江本尚浩税理士、東京税理士会)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
