■ 1.相続で“共有名義”になるってどういうこと?
親の家や土地を兄弟姉妹で相続したとき、
「それぞれの持ち分を決めて共有名義にする」というケースがよくあります。
例)
父の土地を、長男・長女・次女の3人で相続
→ 登記上は「各3分の1ずつの共有」と記載
この状態を「共有不動産」と呼びます。
一見公平に見えますが――
🧾 実は、この“共有”こそが、将来のトラブルの火種になることが多いのです。
■ 2.共有不動産の3つの大きなリスク
① 売るにも貸すにも、全員の同意が必要
共有名義では、原則として全員の合意なしに売却・賃貸ができません。
1人でも反対すると、取引はストップ。
たとえば兄弟の1人が遠方に住んでいたり、連絡が取れなくなると、
家も土地も「動かせない資産」になります。
② 相続が続くたびに持ち分が細かく分かれる
兄弟3人が共有していた土地も、
その1人が亡くなれば、その持ち分がさらに子どもたちに分割相続されます。
結果的に、
- 相続を重ねるごとに持ち主が増える
- 誰がどのくらいの権利を持つか分からなくなる
- 売却や管理が困難になる
💬 “分けたはずの土地が、誰も自由に使えない”
という皮肉な状況に陥るのです。
③ 管理・修繕・税金の負担トラブル
共有名義でも、固定資産税の納付書は代表者に届くため、
他の共有者が負担を逃れるケースもあります。
また、老朽化した家屋の修繕費も、
「誰が、どの割合で払うのか」が決まっていないと揉める原因になります。
■ 3.共有を続けると“負動産”になる?
相続の現場では、こうした共有不動産が“負動産(ふどうさん)”と呼ばれることもあります。
売れない・使えない・維持費がかかる。
相続登記が義務化された今(2024年4月施行)、
共有名義のまま放置すれば、さらに手続きが複雑化します。
■ 4.トラブルを防ぐための3つの対策
🟢 対策① 遺言書で「単独名義」に決めておく
被相続人(親)が元気なうちに、
「長男に土地を、長女に預金を」など、遺言書で具体的に指定しておく。
💬 公平よりも“実務的に管理できる人”を選ぶことがポイント。
🟢 対策② 相続後に「持分をまとめる」
すでに共有名義になっている場合は、
兄弟間で話し合い、持分を買い取って単独名義にまとめる方法があります。
たとえば、
- 長男が土地を引き継ぎ、他の兄弟には現金で精算(代償分割)
- 換価分割(売却して現金を分ける)
💡 税理士・司法書士に相談して「譲渡税」「登録免許税」も含めたトータルで判断しましょう。
🟢 対策③ 共有者全員で「共有物分割協議」を行う
すぐに名義をまとめられない場合は、
共有者全員で「どう使うか」「どう将来処分するか」を書面で取り決めしておくと安心です。
- 使用ルール(誰が住む・貸す・管理する)
- 経費負担(固定資産税・修繕費の分担割合)
- 将来の売却方針
これを「共有物管理契約」として残しておけば、後々の揉め事を防げます。
■ 5.共有を解消するには?
共有状態を解消する方法は主に3つです👇
| 方法 | 内容 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ① 協議分割 | 共有者全員で話し合って決める | 円満・柔軟に決定できる | 全員の合意が必要 |
| ② 共有物分割訴訟 | 裁判所に申立てて決定してもらう | 強制的に解消できる | 時間・費用がかかる |
| ③ 共有物売却 | 共有者の合意で売却して現金を分ける | すっきり整理できる | 売却益に譲渡所得税がかかる |
■ 6.共有名義のまま相続を繰り返した場合の“末路”
共有状態を放置して相続を繰り返すと、
持ち主が数十人に増え、
- 誰も場所を知らない
- 連絡先不明
- 登記できない
という「所有者不明土地」になります。
結果として、売ることも貸すこともできない“幽霊資産”に。
国土交通省によれば、
所有者不明土地は全国で九州本島の面積を上回るといわれています。
■ 7.まとめ:「共有」は“公平”でも“平和”ではない
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 共有の目的 | 公平な相続分配 |
| 現実の問題 | 売却・管理・税金でトラブル化 |
| 放置のリスク | 所有者不明土地化・負動産化 |
| 解決の方向 | 単独名義化・遺言・共有解消協議 |
💬 「公平に分ける」よりも「使いやすく残す」ことが大切。
相続は“分けること”より、“活かすこと”を考える時代です。
🌿 さいごに
共有名義の相続は、一見平等でも、将来の家族に負担を残すことがあります。
いま整理しておくことが、家族の未来の安心につながります。
「とりあえず共有で」と思ったら――
一度、税理士や司法書士に相談してみましょう。
💬 “分ける”のではなく、“守る”ための相続を。
参考資料:
- 国土交通省「所有者不明土地対策の現状」
- 法務省「共有物の分割に関する民法改正(2023年施行)」
- 東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料」塩野入文雄講師(2025年5月8日)
- 日本司法書士会連合会『共有不動産の分割・登記実務』
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
