■ 1.「おひとりさま」の相続とは?
近年、結婚をせず、子どもを持たないまま人生を歩む人が増えています。
総務省の調査によれば、単身世帯は全世帯の約4割にのぼり、
いまや「おひとりさま相続」は珍しいことではありません。
ただし、相続の仕組みは“家族がいる”ことを前提につくられているため、
配偶者や子どもがいない人の相続は複雑で、手続きが長引きやすいのが現実です。
■ 2.法定相続人は「兄弟姉妹」→「甥・姪」へ
配偶者・子がいない場合、相続人となるのは次の順です。
| 順位 | 相続人 | 備考 |
|---|---|---|
| 第1順位 | 子ども(または孫) | いなければ次へ |
| 第2順位 | 父母(または祖父母) | すでに亡くなっている場合も多い |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | 亡くなっていれば甥・姪が代襲相続 |
つまり、兄弟や甥・姪が相続人となるケースが多くなります。
ただし、兄弟姉妹には「相続放棄」や「遺留分がない」といった特徴があり、
「誰が何をどの割合で相続するか」を整理しておかないと、
トラブルや財産凍結につながることも。
■ 3.遺言書は「必須」レベルです
おひとりさまの場合、遺言書がないと、
相続人が遠縁の兄弟姉妹や甥姪になるため、
- 誰が代表で手続きを進めるか
- 遺産分割協議の署名・押印をどう集めるか
などで時間がかかります。
💬 遺言書を作成しておけば、
“自分の意思”で財産の行き先を決められ、家族の手間を大幅に減らせます。
■ 4.遺言書でできる「3つの安心設計」
① 誰に何を残すかを明確に
兄弟・甥姪のうち「お世話になった人」「近くに住む人」など、
関係の深さに応じて柔軟に指定できます。
② 友人や団体への寄付も可能
遺言書があれば、血縁以外の人や団体(NPO・母校など)にも財産を託せます。
「ありがとう」を形にできる、最後のメッセージです。
③ 執行者を決めておく
相続人同士が遠方だったり疎遠な場合、
専門家(弁護士・税理士など)を遺言執行者に指定しておくと安心です。
■ 5.甥・姪への相続は“代襲相続”で可能
兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、
その子ども(=甥・姪)が代わりに相続します。
ただし、兄弟姉妹の配偶者(義理の兄・姉)は相続権なしなので注意。
また、甥・姪が複数いる場合は、
- 相続割合を明記する
- 代表相続人を決める
など、遺言書で整理しておくとスムーズです。
■ 6.相続財産が誰にも渡らないと…?
遺言書もなく、相続人もいない場合、
その財産は最終的に国庫(国のもの)になります。
💬 つまり、「誰かに引き継いでほしい」と思うなら、
その“誰か”を自分で指定しておくしかありません。
家族信託や遺言書を組み合わせれば、
「亡くなった後に、信頼する人が手続きを完了してくれる」しくみを作れます。
■ 7.生命保険で“手続きのしやすさ”を残す
おひとりさまの相続で特に便利なのが、生命保険です。
- 契約者本人が亡くなった時点で、受取人に直接支払われる
- 相続手続き(遺産分割協議)とは別扱い
- 現金でスムーズに渡せる
💡 受取人に甥や姪を指定しておけば、
面倒な相続登記や口座名義変更を避けることができます。
■ 8.信頼できる「人」を決めておく
相続人が遠方や高齢の場合に備え、
「信頼できる友人」や「専門家」を代理人として指定することも検討しましょう。
選択肢としては、
- 公正証書遺言+遺言執行者指定
- 家族信託(受託者を指定)
- 死後事務委任契約(葬儀・届け出などを依頼)
💬 自分の“最期を託す相手”を決めておくことが、
本当の意味での「おひとりさまの終活」です。
■ 9.まとめ:おひとりさま相続の3ステップ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 財産の棚卸し | 預金・不動産・保険などをリスト化 |
| ② 意思を形に | 遺言書や家族信託で指定 |
| ③ 実行者を決める | 信頼できる人・専門家を選任 |
💬 財産の多寡ではなく、“自分の想いをどう残すか”がポイント。
遺言書は、あなたの生き方のメッセージです。
🌿 さいごに
おひとりさまの相続は、誰かに頼ることが難しい分、
「準備こそが最大の思いやり」です。
法的な手続きだけでなく、
- 信頼する人へのメッセージ
- 自分の生き方を伝える方法
を、今のうちにゆっくり考えてみませんか。
参考資料:
- 法務省「遺言制度の概要」
- 国税庁「法定相続人の範囲」
- 東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料」塩野入文雄講師(2025年5月8日)
- 日本FP協会テキスト「ライフプランと法制度」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
