■ 1.「相続空き家特例」ってなに?
親が亡くなったあと、長年住んでいた実家が空き家になってしまった――。
こうしたケースは全国で急増しています。
でも、「空き家のままでは固定資産税がもったいないから売りたい」と思っても、
売却時に譲渡所得税(いわゆる“売却益の税金”)がかかることがあります。
そこで登場したのが、「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」、通称「相続空き家特例」です。
これは、一定の条件を満たせば、
譲渡所得から最大3,000万円を控除できる
という制度です(租税特別措置法第35条の2)。
■ 2.どんな場合に使えるの?
この特例の対象となるのは、
亡くなった方が1人で住んでいた家を、相続人が売却した場合
です。
ただし、次の要件をすべて満たす必要があります。
✅ 主な条件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象の家 | 被相続人が1人で住んでいた家(相続時に空き家) |
| 建物の種類 | 昭和56年5月31日以前に建てられた旧耐震住宅 |
| 売却の時期 | 相続開始日から3年目の年末までに売却 |
| 売却の方法 | 更地にして売却 or 耐震改修をして売却 |
| 売却価格 | 1億円以下であること |
| 相続人の要件 | 売却までに他の人に貸していないこと(賃貸・事業利用NG) |
■ 3.3,000万円の控除ってどんな効果?
たとえば、相続した家を2,500万円で売却し、
もともとの取得費(親が建てた時の建築費など)が500万円だったとします。
本来なら、
→ 2,500万円 − 500万円 = 2,000万円 に対して譲渡所得税がかかります。
でも、相続空き家特例を使えば、
→ 2,000万円 − 3,000万円 = 0円
となり、税金がかからないのです。
つまり、この特例を使うことで「相続した家を売っただけで大きな税金が発生する」という負担を軽くできます。
■ 4.注意! こんな場合は使えません
特例の条件は意外と細かく、思わぬところで使えないケースもあります。
❌ よくある「NG例」
- 被相続人が老人ホームに入っていた(※条件によってはOK)
- 相続後に一度でも人に貸したり、事務所として使った
- 家屋が取り壊されてから長期間放置している
- 売却額が1億円を超える
- 相続人が複数いて、共有状態のまま売却していない
特に、「老人ホームに入っていた」場合は、
自宅を処分せずに保有していたかどうかが重要な判断ポイントです。
やむを得ない理由で入所していた場合などは、
「引き続き居住していた」とみなされ、特例が認められることがあります。
■ 5.「小規模宅地特例」との違い
ここまで学んできた「小規模宅地特例」との違いも整理しておきましょう。
| 比較項目 | 小規模宅地特例 | 相続空き家特例 |
|---|---|---|
| 税目 | 相続税 | 譲渡所得税 |
| 対象 | 相続時の土地・建物 | 売却時の建物・土地 |
| 効果 | 相続財産の評価を最大80%減額 | 売却益から最大3,000万円控除 |
| タイミング | 相続税申告時 | 売却した年の確定申告時 |
| 主な対象者 | 被相続人と同居・家なき子など | 相続人全般(単独相続が多い) |
つまり、
相続時に税金を減らすのが「小規模宅地特例」、
売却時に税金を減らすのが「相続空き家特例」
です。
実務では、両方を上手に組み合わせることも可能。
たとえば、相続時に小規模宅地特例を使って評価を下げ、
その後、空き家として売却する際に3,000万円控除を使う――といったケースもあり得ます。
■ 6.相続した家の「出口戦略」として
この特例は、「空き家のまま放置するよりも早めに売却したほうがよい」という社会的な流れにも合っています。
実際、国税庁の統計では、相続から3年以内に家を売る人のうち、約4割がこの特例を利用しています。
空き家問題は、単に税金の問題ではなく、地域の防犯・防災にも関わります。
もし実家が空き家になる見込みがあるなら、
早めに専門家(税理士・FP・不動産会社)に相談し、
「相続税対策」+「譲渡税対策」をセットで考えるのが得策です。
■ 7.まとめ:空き家にも「優しい出口」がある
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 制度の目的 | 相続後の空き家売却時の税負担を軽くする |
| 控除額 | 最大3,000万円 |
| 期限 | 相続から3年以内の年末まで |
| 適用対象 | 被相続人が1人で住んでいた旧耐震住宅 |
| 注意点 | 賃貸・事業利用はNG、耐震改修か更地化が必要 |
参考資料:
東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料 小規模宅地等の課税特例(特定居住用宅地等)の基礎と実践に向けて」講師:塩野入文雄 氏(2025年5月8日)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
