第1回 「特定居住用宅地等」とは?相続税の“第2の基礎控除”

税理士
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■ 相続税を軽くする「もう一つの控除」

相続税の計算では、まず「基礎控除(3000万円+600万円×法定相続人)」が思い浮かびますが、実はそれ以外にも“第2の基礎控除”と呼ばれる強力な制度があります。
それが「小規模宅地等の課税特例」です(租税特別措置法第69条の4)。

制度のはじまりは昭和58年度税制改正。
当時、地価の上昇で土地に重い相続税がかかる問題を緩和するため、「自宅や事業の土地」について特別に評価を下げる仕組みとして生まれました。
導入から40年以上が経ち、今では相続税の実務で欠かせない存在となっています。


■ 「特定居住用宅地等」とは?

小規模宅地等の特例にはいくつかの種類がありますが、最も利用件数が多いのが
👉 「特定居住用宅地等」(被相続人の自宅の土地に関する特例)です。

この特例は、被相続人(亡くなった方)の居住用に使われていた土地について、一定の親族が相続した場合、最大で土地の評価額が80%減額されるというものです。

例:
被相続人の自宅敷地が5,000万円の評価額なら、
→ 特例を適用すれば1,000万円に圧縮されます。

その結果、課税対象となる遺産総額が大幅に減り、相続税が軽減されるわけです。


■ 特例を受けるための主な要件

「誰が相続するか」「どんな土地か」によって要件が変わります。
主なパターンは次の3つです。

区分適用対象者主な要件
① 被相続人の配偶者制限なし(自動的に適用)居住・保有の継続要件なし
② 同居していた親族相続前から居住・相続後も住み続けること申告期限まで保有継続が必要
③ 同居していない親族(いわゆる“家なき子”)自宅を所有していない、過去3年以内に持ち家に住んでいないなど相続後、一定期間保有を継続

とくに③の「家なき子特例」は誤解が多く、
「持ち家があっても空き家ならOK」と勘違いして適用を否認されるケースが後を絶ちません。
“持ち家がある=アウト”という原則を押さえておきましょう。


■ 老人ホーム入所中でもOK?

最近の実務でよくある質問が、「被相続人が老人ホームに入っていた場合」です。
この場合でも、自宅を処分せずに入所していたなどの一定要件を満たせば、「居住の用に供していた」として特例が認められます。

つまり、「住んでいなかった=NG」ではなく、やむを得ない理由による一時的な非居住ならOKという考え方です。


■ 特例の適用には申告が必要!

注意したいのは、
この特例は自動では適用されないという点です。

相続税申告書に「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」を添付し、
対象地・区分・面積などを記載する必要があります。
基礎控除以下であっても、この特例を使うなら申告書提出が必須です。


■ 申告期限までに“分割確定”がカギ

対象の土地を誰が相続するかが決まっていない「未分割」の状態では、この特例は使えません。
ただし、申告期限(相続開始後10カ月)までに「3年以内に分割する見込み書」を添付しておけば、後日確定後に更正の請求で適用することも可能です。


■ 今後の改正にも注意

講師資料でも指摘されているように、特例による減額効果が大きすぎる点が課題視されています。
令和7年度以降、厳格化の方向で見直しが検討されており、
たとえば「20年を超える勤続年数に応じた退職所得控除見直し」などと同様、
働き方や居住形態の多様化に合わせた制度改正が想定されています。


■ まとめ

ポイント内容
制度趣旨被相続人の自宅など小規模な宅地の税負担を軽減
適用対象被相続人の配偶者、同居親族、「家なき子」など
減額率最大80%(上限330㎡まで)
要申告申告書への明細書添付が必要
注意点分割未確定・形式的な居住はNG

次回は、第2回として
🔹「家なき子特例」の誤解と実務判断
🔹「二世帯住宅・老人ホーム入所時の扱い」
🔹「配偶者居住権や相続空き家特例との関係」
を具体事例で解説します。


参考資料
東京税理士会「令和7年度第5回会員研修会資料 小規模宅地等の課税特例(特定居住用宅地等)の基礎と実践に向けて」講師:塩野入文雄 氏(2025年5月8日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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