1.予実管理の中心にある「PDCAサイクル」
前回は、「予実管理=経営の見える化の仕組み」だという話をしました。
では、予実管理を実際に回すには、どんな流れになるのでしょうか?
その答えが、経営管理の基本中の基本――
PDCAサイクルです。
PDCAとは、次の4つのステップの頭文字を取った言葉です。
| 項目 | 意味 | 予実管理での対応 |
|---|---|---|
| P(Plan) | 計画 | 予算を立てる・目標を設定する |
| D(Do) | 実行 | 実際の業務を行う |
| C(Check) | 点検 | 予算と実績を比べて差を確認する |
| A(Action) | 改善 | 次の改善策を考え、反映する |
このサイクルを毎月・毎四半期と繰り返すことで、
経営の「クセ」が見えてきます。
たとえば「営業部は数字が安定しているけれど、原価が上がっている」といった傾向が見つかるのです。
つまり、予実管理とは、経営のPDCAを数字で回すことにほかなりません。
2.PDCAが動かなくなる理由
多くの会社で「PDCAが回っていない」と言われる理由はシンプルです。
それは――
P(計画)とC(点検)がつながっていないからです。
計画を立てても、実績を分析しなければ「やりっぱなし」になります。
逆に、実績を見ても次の改善(Action)に生かさなければ意味がありません。
つまり、PDCAは「4つで1つ」。
どれか1つでも欠けると、経営の歯車が止まってしまいます。
3.KPIとは?目標を「分解」する考え方
ここで登場するのが、KPI(ケーピーアイ)=重要業績評価指標という考え方です。
KPIは、会社の大きな目標(たとえば売上・利益)を、
“小さな行動目標”に分解して管理する仕組みです。
たとえば、年間売上目標が1億円の会社なら……
- 売上=販売数量 × 販売単価
- 販売数量=営業件数 × 成約率
と分解できます。
つまり、営業件数や成約率も立派なKPIです。
大きな目標をKPIに分けて管理すれば、
「なぜ売上が上がらないのか?」を具体的に説明できます。
売上が落ちた理由が「価格」なのか「数量」なのか。
そこが分かれば、打ち手も変わるのです。
4.KPIを正しく設定する4つのルール
KPIを設定するときは、次の4つのルールを意識しましょう。
- 最終的に利益につながる指標にする
(例:売上・原価・人件費・顧客数 など) - 数字の関係が論理的であること
(売上=数量×単価 のように因果関係が明確) - 各部署が自分ごととして動けること
(担当部署がコントロールできる範囲の指標にする) - 実際に集計・確認できるデータであること
(現場で追えない数字では意味がない)
KPIは「多すぎても少なすぎてもダメ」。
1部署あたり3〜5個が目安です。
5.部署ごとに“責任を分ける”ことがカギ
予実管理の失敗でよくあるのが、
「数字の責任があいまい」なケースです。
たとえば――
- 売上目標だけ営業部に渡しても、
価格を決めるのは商品企画部。 - 原価を下げたいのに、製造部がそのKPIを持っていない。
これでは現場が動けません。
KPIは「数字を動かせる部署」に設定することがポイントです。
営業部には「販売数量」、
企画部には「販売価格」、
製造部には「原価」――といった具合に、
それぞれの部署が責任を持つ指標を明確にしましょう。
6.KPIは人事評価とつなげると強い
KPIを設定したら、それを人事評価や賞与制度に反映させると、現場の動きが変わります。
「数字を追うこと=評価につながる」とわかれば、社員の意識が自然と変わります。
その際は、経営企画や人事部門が連携し、
「評価しやすいシンプルな指標」に整理しておくとスムーズです。
7.まとめ:PDCAとKPIで“動く数字管理”を
予実管理は、単なる会計資料ではありません。
会社を動かす仕組みです。
PDCAで経営の流れをつくり、
KPIで現場の行動を見える化する。
この2つを組み合わせることで、
「数字が会社を導く」仕組みが完成します。
⏭️ 次回予告
第3回は――
「予算の立て方とKPI設計のコツ」
ロジックツリーを使って、売上や利益をどう分解するかを具体的に解説します。
📘 参考資料
『経営状態を見える化する「予実管理」の手引き』
(企業実務2025年9月号 別冊付録)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
