「売上が増えたのだから、順調だろう」。
そう考える経営者は少なくありません。
しかし、財務諸表を読み解くとき、売上高の増減だけで安心してはいけません。
本当に見るべきは、「利益が伴っているかどうか」です。
今回は、財務諸表の基本である損益計算書を題材に、「売上」と「利益」の関係をやさしく解説します。
売上高が増えたのはなぜか?
売上高を増やすには、販売単価か販売数量を増やすしかありません。
決算書で前年より売上が増えていた場合、その背景には次の2つの動きが考えられます。
(1)販売数量の増加
新規顧客の獲得、既存取引先との取引拡大、新商品の投入などが要因です。
ただし、取引先の廃業や競合他社への流出もあるため、常に新しい販路の開拓と関係維持が必要です。
また、既存商品の将来性が不透明な場合、新たな収益源を育てる戦略も重要です。
したがって、売上高の増減を評価する際は、取引先数や販売数量の推移もあわせて分析しましょう。
(2)値上げの実施
原材料や人件費の高騰が続くなか、価格転嫁(値上げ)の実行力が問われています。
「値上げすると取引が切られるのでは」と懸念する経営者も多いですが、
原価上昇を数字で説明できるよう、経理担当者はデータに基づく交渉資料の作成を支援しましょう。
🔎 参考:中小企業庁『中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック』(2023年改訂)
なお、低価格で数量を増やす戦略は一見魅力的ですが、
人件費増加や仕入先への支払先行で資金繰りが悪化するリスクがあります。
「売上増=善」ではないことを忘れてはいけません。
利益率の異常を見逃さない
売上高が増えても、利益率が低下していれば注意が必要です。
例えば、7,000円の商品を1万円で販売していれば原価率70%、利益率30%。
通常、この割合は大きく変動しません。
しかし、原価上昇を販売価格に転嫁できなかった場合、
売上が増えても利益率の低下→利益の減少につながります。
もし売上総利益が前年より減っているなら、
「原価上昇を価格に反映できていない」「固定費の増加が負担になっている」可能性があります。
経理担当者は、決算書上の売上総利益率や営業利益率の推移をチェックし、
異常値をいち早く経営者に報告することが重要です。
利益額を守る視点も忘れずに
利益率にこだわりすぎるのも問題です。
原価上昇時に利益率を維持しようとすると、販売価格を上げざるを得ません。
結果として競合に負け、売上数量が減れば、トータルの利益額が減少します。
大切なのは「利益率」ではなく、最終的な利益額を守ることです。
たとえば、原価が10%上昇しても、価格設定を工夫すれば
利益率は下がっても利益額を維持できるケースもあります。
価格戦略を考える際は、利益額の確保を最優先にすべきです。
事業別・取引先別の収支もチェックを
会社全体では黒字でも、内訳を見れば赤字の事業が潜んでいることがあります。
たとえば——
- A事業:売上も利益も大きく経営を支える主力
- B事業:売上規模は大きいが赤字が続く
- C事業:小規模ながら黒字で成長中
このような構造であれば、経営資源の再配分を検討する必要があります。
赤字事業(B事業)を継続すべきか、撤退して成長分野(C事業)に集中すべきか。
経理担当者は、事業別・店舗別・取引先別などの損益資料を作成し、
経営者の意思決定を支える「数値の通訳者」としての役割を果たしましょう。
まとめ:売上よりも「利益の質」を見る
売上の増加は確かに企業成長のサインですが、
利益が伴っていなければ、実態は“膨らんだ風船”のようなものです。
- 売上高の背景(数量・単価)を分析する
- 利益率の異常を早期に察知する
- 利益額を守るための価格戦略を考える
- 事業・取引先別の収支を可視化する
これらを意識すれば、財務諸表は「過去の記録」ではなく、
未来の経営判断を導くツールへと変わります。
✏️ 補足メモ
経理部門は単なる数字の入力者ではなく、
「経営者の右腕」として意思決定をサポートする存在です。
今日からは「売上」ではなく「利益の質」に注目して、
経営の健全性を一緒に育てていきましょう。
📘参考資料
企業実務サポート2025年9月号
『財務諸表から読み解く「経営分析」講座】第4回 売上高だけでなく利益にも注目しよう』
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

