■「相続税の申告書」って何が書いてあるの?
相続が発生して10カ月以内に提出する「相続税申告書」。
税務署に出す公式書類ですが、ページ数は10枚以上。
初めて見ると、ほとんどの方がこう言います。
「これ……どこを見ればいいんですか?」
この記事では、申告書の“骨格”を理解するだけで全体がスッキリ見えるように、
FP・税理士の視点から順番に解説します。
■まずは構造をつかもう
相続税申告書は、大きく分けて5つのパートで構成されています。
| パート | 内容 | 主な書類 |
|---|---|---|
| ① 基本情報 | 被相続人・相続人・住所など | 第1表 |
| ② 財産の明細 | 預金・不動産・有価証券など | 第11~15表 |
| ③ 債務・葬式費用 | 借入金・未払医療費など | 第10表 |
| ④ 各種特例 | 小規模宅地・配偶者控除など | 第9表・別表 |
| ⑤ 税額計算・控除 | 税率・税額控除など | 第2~8表 |
■第1表:申告書の“顔”
ここには相続税の「総額」と「納付額」が記載されます。
つまり、最終結果がすべて集約されているページです。
主な記載欄
- 被相続人(亡くなった方)の氏名・住所・死亡日
- 相続人の人数・続柄
- 相続税の総額
- 各相続人が納める税額(または還付額)
🧩この1枚が「相続税の答え」。
ただし、その計算過程を理解するには“裏ページ”を見る必要があります。
■第11~15表:財産の明細書(ここが核心)
ここには、亡くなった方が残した財産の一覧表が載ります。
評価額を算出するための「根拠書類」もここにひも付きます。
よく登場する項目:
- 預貯金・株式・国債
- 不動産(土地・建物)
- 保険金・退職金
- 現金・貴金属・車など
🧾評価方法の一例:
| 資産の種類 | 評価基準 |
|---|---|
| 預金・株式 | 相続発生日の残高・終値 |
| 不動産(土地) | 路線価 × 面積(または倍率法) |
| 建物 | 固定資産税評価額 |
| 保険金 | 受取金額(非課税枠500万円×法定相続人控除あり) |
💡ここでのポイント:
「何をどの値段で評価したか」が、税額の出発点。
税理士の腕の見せどころも、この明細書の精度にあります。
■第9表:小規模宅地等の特例
「相続税がかからない」と思っていたのに、
この表があるかないかで税額が100万単位で変わることがあります。
- 居住用宅地 → 330㎡まで80%評価減
- 事業用宅地 → 400㎡まで80%減
- 貸付用宅地 → 200㎡まで50%減
この表には、
・住所
・利用区分
・適用理由(同居・事業・貸付)
などが細かく書かれています。
🧩税務署が最もチェックするのもこのページ。
“使える条件を満たしているか”の説明欄が重要です。
■第2~8表:税額計算と控除一覧
ここは数字の組み合わせパート。
所得税でいう「確定申告の計算書」に近いページです。
- 相続税の基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人
- 各人の課税価格
- 相続税の総額算出
- 配偶者控除・未成年者控除・障害者控除・相次相続控除
💡FPポイント:
控除や特例を適切に反映させると、税額が大きく減ります。
申告書では、「使える控除を使い切っているか」を確認しましょう。
■添付書類チェックリスト(税務署に提出するもの)
| 分類 | 書類例 |
|---|---|
| 身分関係 | 戸籍謄本・相続関係説明図 |
| 財産関係 | 預金残高証明書・不動産登記簿・固定資産評価証明書 |
| 保険・年金 | 生命保険支払通知書・退職金支払証明書 |
| 特例関係 | 小規模宅地の使用証明書・居住実態資料など |
| その他 | 委任状・遺産分割協議書の写し |
🧾ここを整理しておくと、相続税の“あと確認”(税務署の質問)に強くなります。
■実務の流れ:税理士が申告書を仕上げるまで
① 財産調査・評価(2〜3カ月)
↓
② 分割方針・特例適用の検討(3〜6カ月)
↓
③ 相続税申告書の作成・確認(8〜9カ月)
↓
④ 申告・納付(10カ月以内)
💡この流れを意識すると、「今、何を準備すべきか」が明確になります。
FP・税理士に依頼する場合も、このスケジュール感が基本です。
■「ここを見るだけで理解できる」3つのチェックポイント
| チェック項目 | 見る場所 | 意味 |
|---|---|---|
| 相続税の総額 | 第1表右上 | 家全体での税負担の目安 |
| 小規模宅地の適用有無 | 第9表 | 大きな節税要素(80%減額) |
| 各人の税額 | 第1表下段 | 誰がいくら払うか |
🧩この3つを押さえるだけで、申告書の「骨格」が理解できます。
■FP・税理士のひとこと
相続税申告書は“計算書”ではなく、“家族の記録簿”です。
どんな財産があり、誰がどんな形で引き継いだかが、一目で分かる。
だからこそ、数字だけでなく「家族の物語」も一緒に残してほしい。税務書類を通じて、次の世代に“家族の軌跡”を伝える——
それが、私たち専門家が考える“書類の向こう側”です。
📚参考:
- 国税庁「相続税の申告のしかた」
- 日本税理士会連合会『相続税申告書の作成マニュアル』
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」
🧭次回予告(実務手続き編③)
📂「税務調査に備える相続書類整理術」
——税務署から“お尋ね”が来たときに慌てないための、
通帳コピー・契約書・メール・現金出入の管理方法を徹底解説。
✍️あとがき
書類を読む力は、“安心して任せる力”でもあります。
申告書を理解できる家族は、相続後の信頼関係も強い。
数字の中に、家族の思いを読み取る——
それが、税理士の仕事の原点だと思っています。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
