■「うちは関係ない」と思っていませんか?
「相続税がかかるのは、一部の資産家だけ」——そう信じている人は少なくありません。
しかし、地価の上昇や基礎控除の引き下げによって、「相続税がかかる家庭」は確実に増えています。
たとえば、都内で両親と暮らす40代女性。
「両親が亡くなった後に実家を相続したら、約3,000万円の相続税がかかる可能性がある」とFPセミナーで指摘され、驚いたといいます。
実家は200㎡の土地にある一般的な戸建て。高級住宅地ではありません。
それでも、近隣の再開発やマンション価格の上昇により、路線価(相続税評価額の基準)が数年で2割上昇。
結果として、課税対象に入ってしまったのです。
■なぜ今、「相続税」が身近になっているのか
ポイントは3つあります。
① 基礎控除の引き下げ(2015年改正)
相続税の計算では、
「3,000万円+600万円×法定相続人の数」が基礎控除額。
この控除額は2015年の法改正で4割削減されました。
- 配偶者+子1人 → 基礎控除4,200万円
- 子1人のみ(二次相続)→ 3,600万円
たとえば、都内の持ち家(評価額7,000万円)と預貯金2,000万円があれば、
基礎控除を差し引いても課税対象が出るケースが少なくありません。
② 地価・路線価の上昇
土地の評価は「路線価」で決まります。
国税庁が7月に公表した2024年分の路線価は全国平均で前年比2.7%上昇。
リゾート地や観光地(長野・白馬村、沖縄・恩納村など)でも上昇が目立ち、
「売らざるを得ない相続」が増えつつあります。
③ 相続人が少ない家庭の増加
少子化により、相続人が1人または2人というケースが増えています。
控除額が小さいため、同じ遺産額でも税負担が重くなるのです。
「夫婦+子1人」の世帯では、一次相続・二次相続を通じて課税されやすい構造になっています。
■「特例」が使えないと、税額は跳ね上がる
「小規模宅地等の特例」を使えば、
居住用の土地は最大80%の評価減が可能です。
ただし、適用には条件があります。
たとえば——
- 同居していない子が相続する場合
- 親が亡くなる前に空き家になっていた場合
- すでに別の持ち家に住んでいる場合
などでは、特例が使えないこともあります。
“実家が空き家になっている家庭”は要注意です。
■相続トラブルは「資産家」よりも「一般家庭」に多い?
裁判所の統計によると、
遺産分割の調停件数は2015年の約1.3万件から、2024年には約1.7万件へと増加。
しかも、8割が「遺産5,000万円以下」の家庭です。
つまり、「うちは大した財産がないから大丈夫」と安心する層こそ、
揉めやすい構造にあるということ。
背景には、「長男が継ぐべき」と考える親世代と、
「兄弟で平等に分けたい」と考える子世代の意識のズレもあります。
■FP・税理士がすすめる「3つの備え」
① 財産の見える化
まずは「どのくらいの相続財産があるのか」を把握。
不動産の路線価や預貯金、生命保険などを一覧にまとめましょう。
FPや税理士に相談すれば、簡易的な相続税シミュレーションが可能です。
② 遺言書の作成
争いを防ぐ最大の対策は「遺言書」。
最近は自筆証書遺言保管制度を使えば、法務局で安全に保管できます。
③ 生前贈与・名義整理
2024年度税制改正で「暦年贈与」のルールが一部変わり、
生前対策はより計画的に行うことが重要に。
名義の整理(預金や不動産の共有状態など)も早めに確認しましょう。
■「相続」は“家族の節目”
相続はお金の問題であると同時に、
「親への感謝」と「次世代への引き継ぎ」の節目です。
「まさか私も相続税?」と思った今が、
家族で話し合いを始める絶好のタイミングです。
🧾【まとめ】
| チェックポイント | 内容 |
|---|---|
| 基礎控除 | 3,000万円+600万円×法定相続人 |
| 路線価上昇 | 全国平均+2.7%、都市部・リゾート地で上昇顕著 |
| 特例 | 小規模宅地80%減など、条件を確認 |
| トラブル傾向 | 遺産5,000万円以下が8割 |
| 対策 | 財産の見える化・遺言書・生前贈与 |
✍️ 税理士・FP解説(あとがき)
相続税は「人ごと」ではありません。
地価が上がるほど、相続税の“対象者”は静かに増えていきます。
「親の家が高く売れるかもしれない」という話を聞いたら、
それは同時に「相続税がかかるかもしれない」というサインでもあります。
早めの対策こそ、家族の平穏を守る第一歩です。
💡参考:
- 国税庁「令和5年分 相続税の申告実績の概要」
- 日本経済新聞「まさか私も相続税? 地価高騰、申告対象者10年で3倍弱に」(2025年10月掲載)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

