ここまでの2回で、
「小規模宅地等の特例」の基本的な仕組みと、
誰が適用できるのか・どんな条件があるのかを一緒に見てきました。
最終回の上級編では、もう一歩踏み込みます。
- 複数の土地がある場合、どれに特例を使えるの?
- 二世帯住宅は“同居”と見なされるの?
- 自宅と事業用の土地を両方持っている場合は?
実務でもよく質問される「グレーゾーン」や「使い分けのコツ」を、具体的な事例とともに解説します。
1️⃣ 基本ルール:1人につき1つの土地にしか使えない
まず押さえておきたいのは、
小規模宅地の特例は、1人の被相続人につき1区分ずつしか使えないという原則です。
ただし、「居住用」と「事業用」など異なる種類の宅地を組み合わせることは可能です。
| 土地の区分 | 評価減割合 | 上限面積 | 併用できる? |
|---|---|---|---|
| 居住用宅地 | 80% | 330㎡ | 事業用・貸付用と併用可 |
| 事業用宅地 | 80% | 400㎡ | 居住用・貸付用と併用可 |
| 貸付事業用宅地 | 50% | 200㎡ | 他の宅地と併用可(上限あり) |
💡 たとえば…
被相続人が「自宅」と「店舗」を所有していた場合、
それぞれに特例を使えるケースがあります。
- 自宅土地 → 居住用(80%減・330㎡まで)
- 店舗土地 → 事業用(80%減・400㎡まで)
このように区分が異なれば併用できるのが特徴です。
ただし、同じ区分の土地を複数選ぶことはできません。
2️⃣ 複数の宅地がある場合:どれを選ぶべきか?
もし複数の宅地(自宅+別荘など)がある場合、
どの宅地に特例を使うかを選ぶ必要があります。
原則として、次のように判断します。
✅ 優先すべき宅地の選び方
- 評価額の高い土地を優先
→ 評価減の効果が最も大きくなる - 実際に居住していた宅地を選ぶ
→ 条件を満たしやすく安全 - 将来的に手放さない土地を選ぶ
→ 保有要件違反による取消しリスクを避ける
❌ よくある失敗例
・相続人同士で分割協議を急ぎすぎ、申告期限を過ぎた
・評価額の小さい宅地に特例を使ってしまった
・特例を使った土地をすぐ売却して取消しになった
制度を「形だけ使う」と、かえって損をすることも。
専門家に評価シミュレーションを依頼するのが確実です。
3️⃣ 二世帯住宅は“同居”と見なされる?
二世帯住宅は相続実務で非常に多いケースです。
結論からいえば――
建物の構造と生活実態によって「同居」と認められるかが変わります。
🏠 一部共有型(二世帯が一部共有している場合)
- 玄関や水回りを共有
- 電気・ガス・水道契約も1本
➡ 「同居」と認められる可能性が高い。
実際の生活が一体であれば、特例適用OKです。
🏠 完全分離型(二世帯が完全に分かれている場合)
- 玄関・キッチン・浴室が完全に別
- 登記上も独立した住戸構造
➡ 原則として「同居」には当たらない。
ただし、建物全体が「一棟」として登記され、
生活の実態が密接な場合は、例外的に認められることもあります。
💡 注意ポイント
- 二世帯住宅は「登記」「建物構造」「生活実態」の3つを総合的に判断。
- 税務署は「住民票」だけではなく、電気・ガス使用量や郵便物の受取状況も確認します。
4️⃣ 貸家併用住宅・店舗併設住宅の扱い
被相続人が1階を店舗、2階を自宅にしていた場合など、
「自宅+事業用」を兼ねる建物も多く見られます。
この場合、宅地の面積を按分して次のように扱います。
| 部分 | 用途 | 適用区分 | 評価減割合 |
|---|---|---|---|
| 1階店舗部分 | 事業用宅地 | 80%減 | |
| 2階居住部分 | 居住用宅地 | 80%減 |
つまり、建物の用途に応じて按分し、それぞれの特例を適用できます。
一方、アパートなどの貸付部分は「貸付事業用」として50%減に。
❌ 注意
「賃貸アパートを建てている土地」に居住していた場合、
自宅部分は居住用80%減が使えますが、
アパート部分は貸付用(50%減)になるため、全体では減額率が異なります。
5️⃣ 生前対策で気をつけたいこと
小規模宅地の特例は相続時点の状況で判断されるため、
生前に次のような準備をしておくことが重要です。
✅ ① 登記と生活実態を一致させておく
名義上は親の家でも、実際は子が住んでいる場合など、
登記名義を早めに整理しておきましょう。
✅ ② 二世帯住宅は構造を考慮して建築する
将来の相続を見据えて、「一部共有型」にしておく方が有利です。
✅ ③ 生前贈与とのバランス
相続直前の贈与で持ち家を持ってしまうと、
「3年ルール」で特例が使えなくなることがあります。
🧩 図解構成案(note掲載用)
図①:複数宅地の併用イメージ
自宅(土地A)→ 居住用 80%減(330㎡)
店舗(土地B)→ 事業用 80%減(400㎡)
賃貸アパート(土地C)→ 貸付用 50%減(200㎡)
→ 併用OK(合計上限は1,000㎡)
図②:二世帯住宅の判断基準
| 項目 | 一部共有型 | 完全分離型 |
|---|---|---|
| 玄関 | 共有 | 別 |
| 水回り | 共有 | 別 |
| 登記 | 一棟 | 各世帯別 |
| 扱い | 同居と認められる傾向 | 原則NG |
✨ まとめ:複数の土地も「整理と選択」で節税はできる
小規模宅地の特例は、「条件が厳しい」と思われがちですが、
ルールを理解し、適切に組み合わせれば非常に強力な節税策になります。
重要なのは次の3点です。
- どの宅地に使うかを見極める(評価額と保有予定で判断)
- 同居の実態や建物構造を整える(形式ではなく実態)
- 相続前から整理しておく(登記・生活・分割協議の準備)
家族の住まいや土地の形は千差万別。
だからこそ、早い段階から専門家に相談し、
「うちのケースではどうなるか?」を確認しておくことが何より大切です。
📚 出典・参考
- 日本経済新聞(2025年10月11日朝刊)「相続税(中) 小規模宅地の特例で節税」
- 国税庁タックスアンサー No.3302
- 東京国税局「小規模宅地特例Q&A」
- 税理士法人レガシィ『相続土地の特例完全ガイド』
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
