前回の記事では、「小規模宅地等の特例」が
自宅の土地の評価額を最大80%減らせる制度であることを紹介しました。
ただし、この特例――
「誰が相続するか」「どんな状況だったか」で、使えるかどうかが大きく変わります。
今回の中級編では、実際のケースをもとに、
適用できる人・できない人の違い、そして見落としやすい落とし穴をわかりやすく解説します。
1️⃣ まず基本:特例が使える3つのタイプ
特例の対象者は、法律上、次の3つに分類されます。
| 区分 | 適用のしやすさ | 主な条件 | 同居要件 |
|---|---|---|---|
| ① 配偶者 | ◎(最も緩い) | 婚姻関係あり | 不要 |
| ② 同居親族 | ○ | 実際に同居している | 必要 |
| ③ 持ち家のない別居親族 | △(最も厳しい) | 「3年ルール」を満たす | 不要 |
それぞれの違いを順に見ていきましょう。
2️⃣ 配偶者は「自動的にOK」
配偶者が相続する場合は、同居していなくても無条件で適用可能です。
被相続人と別居していても、法律上の婚姻関係にあればOK。
ただし、申告期限(相続開始から10カ月以内)までに
遺産分割が確定している必要があります。
つまり、
💡「夫婦で別居していたけれど、妻が土地を相続する」
といったケースでも、特例は使えます。
最も手厚い優遇を受けられる立場といえますね。
3️⃣ 同居親族は「実態のある同居」がカギ
次に多いのが、同居していた子どもが相続するケースです。
この場合、条件は以下の通り。
✅ 適用条件
- 被相続人と同じ建物に居住していた
- 相続開始のときにその土地・建物を引き続き所有・居住している
- 持ち家を別に所有していない(自宅を二重所有していない)
ここで注意したいのが、「住民票だけ移してもNG」という点です。
実際の生活実態がなければ認められません。
❌ よくある誤解
「親の家の方が広いから、住所だけ移しておこう」
「将来の相続を考えて形式的に同居扱いにしておいた」
こうした“形式的な同居”は、税務調査で否認されます。
税務署は、水道・電気・ガスなどの使用履歴を見て、
実際に生活していたかどうかを確認します。
✅ ワンポイント:二世帯住宅の扱い
二世帯住宅の場合でも、玄関やキッチンが分かれている完全分離型だと、
「同居」とは見なされないことがあります。
逆に、リビングや浴室などを共有している「一部共有型」なら認められる可能性が高いです。
構造上の違いが大きなポイントです。
4️⃣ 持ち家のない別居親族は「3年ルール」に要注意
最後に、少し複雑なのが「持ち家のない別居親族」です。
これは、被相続人に配偶者も同居親族もいない場合に限って適用されます。
✅ 条件(すべて満たす必要あり)
- 被相続人に配偶者も同居親族もいない
- 相続開始前3年以内に、自分または配偶者が所有する家に住んでいない
- 相続時に、その宅地を相続し、相続後も保有し続ける
❌ 適用できないパターン
- 自分や配偶者の持ち家に住んでいた
- マンションを所有していた(賃貸中でもNG)
- 過去3年以内に一時的に自分の家に戻った
「家を持っていた」というだけで、特例の対象外になります。
とくに、一度自宅を所有していた人は要注意です。
✅ OKになるケース
- 社宅・寮・官舎など、自分名義でない家に住んでいた
- 賃貸住宅に住んでいた
- 遠方で単身赴任中だった
つまり、「自分や配偶者の持ち家ではない」なら、条件を満たす可能性があります。
5️⃣ 実際の事例で整理してみよう
| ケース | 概要 | 特例の可否 | 理由 |
|---|---|---|---|
| A | 同居していた息子が相続 | ◎ | 実際の居住があるためOK |
| B | 住所だけ移したが別居していた娘 | ✖️ | 形式的な同居のためNG |
| C | 配偶者が別居中に相続 | ◎ | 婚姻関係があれば無条件 |
| D | 長男が自宅を所有し、母の家を相続 | ✖️ | 「持ち家あり」でNG |
| E | 次男が社宅住まいで母の家を相続 | ○ | 3年ルールを満たせばOK |
6️⃣ よくある“落とし穴”
⚠️ ① 期限を過ぎるとアウト
申告期限(10カ月)までに遺産分割が終わっていないと、特例は使えません。
分割協議が長引いた場合、特例なしで課税される可能性があります。
⚠️ ② 相続後すぐに売却したらNG
せっかく特例を使っても、相続直後にその土地を売却すると、
「保有継続要件」を満たさなくなり、特例の取消し対象になります。
最低でも相続税申告後しばらくは、土地を手放さない方が安全です。
⚠️ ③ 名義と実態のズレ
不動産登記が親名義のまま放置されているケースも多いですが、
登記名義と実際の居住状況がずれていると、特例が使えないことがあります。
登記の確認は早めに。
🧩 図解構成案(note掲載用)
図①:特例が使える人の関係図
┌─── 被相続人 ───┐
│ │
│ ├ 配偶者 → 常にOK(同居不要)
│ │
│ ├ 同居していた子 → 実態が必要
│ │
│ └ 別居していた子 → 3年ルールを満たせばOK
図②:「3年ルール」判定フローチャート
Q1. 配偶者 or 同居親族がいますか?
→ はい → あなたは対象外
→ いいえ → 次へ
Q2. 3年以内に自分や配偶者の家に住みましたか?
→ はい → 対象外
→ いいえ → 特例の対象になる可能性あり
✨ まとめ:形式ではなく“実態”がすべて
「小規模宅地等の特例」は強力な制度ですが、
“同居”や“持ち家なし”の実態があるかどうかが最大のポイントです。
住所を移しただけ、名義だけ変えた――
そうした“形式的な対策”では税務署に通用しません。
💡 ポイントは「生活の実態」と「申告期限内の準備」。
制度の要件を正しく理解し、早めに専門家と相談しておくことで、
大切な家を守ることができます。
📚 出典・参考
- 日本経済新聞(2025年10月11日朝刊)「相続税(中) 小規模宅地の特例で節税」
- 国税庁タックスアンサー No.3302「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」
- 東京国税局「相続税の小規模宅地等の特例に関するFAQ」
🪴次回予告
👉 第3回(上級編):「複数の土地・二世帯住宅・事業用資産――特例をどう使い分ける?」
実務でも迷いやすい“複数宅地の選択”や“貸家併用住宅”の扱いを、図解で徹底解説します。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
