所得税還付で膨らむ不正 SNSと電子申告の落とし穴

税理士
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不正還付が急増している現状

ここ数年、所得税の還付を狙った不正申告が全国で相次いでいます。国税庁の統計によると、2023事務年度(23年7月~24年6月)に摘発された不正還付は597件。わずか3年前の20事務年度と比べて3倍以上に膨れあがりました。

特に目立つのが、匿名・流動型犯罪グループ「トクリュウ」による組織的な犯行です。高知県警が5~9月に摘発した事件では、SNSを通じて闇バイトを募り、国税電子申告・納税システム(e-Tax)の識別番号を取得させ、全国の税務署に対して虚偽の確定申告を繰り返していました。その不正還付総額は1800万円以上にのぼるとされています。

このグループは、架空の事業内容をでっち上げ、経費が収入を上回り赤字になったように装い、還付金を請求。北海道から沖縄まで、全国の税務署を舞台に組織的に不正を働いていました。特殊詐欺や窃盗にとどまらず、税制度にまで目を付けて犯罪を拡大しているのです。


仕組みを悪用する手口

所得税の還付は、納めすぎた税金を返してもらう正当な仕組みです。

  • 個人事業主は、取引先から報酬を受ける際に所得税を源泉徴収されます。事業が赤字なら納めすぎた分が還付されます。
  • 会社員も副業を行い、その副業が赤字だった場合には「損益通算」によって給与所得と相殺でき、結果として給与から天引きされた税金の一部が戻ってくることがあります。

この仕組み自体は適法で、きちんと運用されれば納税者の救済になります。
しかし近年は、この制度を悪用して架空の事業で申告したり、実際に事業をしていても経費を過大に計上したりするケースが目立ちます。

実際、東京国税局は2024年2月、副業会社員に「不正な還付の受け方」を指南して報酬を得ていたコンサルティング会社代表を所得税法違反で告発しました。2018年以降、延べ100人もの会社員に手口を伝授していたとされ、同年7月に在宅起訴されています。


電子申告の普及と心理的ハードルの低下

不正が広がる背景には、電子申告(e-Tax)の普及があります。2024年分の個人の確定申告ではe-Taxの利用率が74%と過去最高を更新しました。

利便性が高まり、窓口に行かず自宅からでも申告できるようになったのは大きなメリットです。
しかしその一方で、税務当局の幹部は「窓口で対面せずに済むことで、不正に対する心理的な抵抗感が薄れているのではないか」と指摘しています。

顔を合わせて職員に説明する必要がなければ、「少しぐらいごまかしてもばれないのでは」と思ってしまう人もいるのでしょう。しかし、これは非常に危険な考え方です。


国税当局の対応と警鐘

国税庁も、過去の不正パターンをデータベース化し、AIなどを活用して「不審な申告」を自動的に抽出する仕組みを強化しています。

大阪国税局OBの山本吉伸税理士はこう警鐘を鳴らしています。

「所得税は申告納税制で、虚偽の内容を出してもすぐには露見しにくい。だが、チェックは厳重で、時間がかかっても不正は必ず見抜かれる。不正に手を染めれば脱税として摘発され、刑事責任を問われることになる」

つまり「やった者勝ち」では決してなく、発覚すれば社会的信用を失う大きなリスクを負うことになります。


副業の損益通算 正しいやり方と注意点

ここまで紹介してきた事例の多くは制度の「悪用」です。しかし、副業を行う会社員にとって、損益通算は正しく使えば有効な制度です。では、どこに注意すべきでしょうか。

損益通算とは?

損益通算とは、ある所得の赤字を他の所得の黒字と相殺できる仕組みです。

  • 事業所得(フリーランス、個人事業)
  • 不動産所得
  • 山林所得

これらの赤字は給与所得などと通算が可能です。

一方で、雑所得の赤字は原則通算できません。たとえば「小規模な副業」や「内職」のような規模感では、雑所得と判定される可能性が高く、損益通算は認められません。

税務署に疑われやすいケース

  • 毎年赤字が続く場合 → 趣味や節税目的と疑われる
  • 経費が不自然に大きい場合 → 実際に支出していない可能性がある
  • 売上規模が小さすぎる場合 → 事業性がなく雑所得と判定される可能性

正しく使うためのチェックポイント

  • 帳簿と証拠書類を整備する(領収書や取引記録は必須)
  • 開業届を出すなど事業性を示す(継続的な取引や収益改善の努力も重要)
  • 無理に赤字を作らない(節税のために赤字計上するのは危険)

副業が「事業所得」と認められるためには、営利性・継続性・反復性が必要です。副業をする際には、自分の活動がどの所得区分に当たるかを意識することが欠かせません。


まとめ 正しく制度を活用するために

所得税の不正還付は、この3年で3倍以上に増えています。SNSを利用する犯罪グループや、一見便利そうに見える「還付金ビジネス」の誘いに乗ってしまえば、思わぬ形で犯罪に加担してしまうリスクがあります。

一方で、損益通算など正規の仕組みを理解し、ルールを守って活用すれば、副業を頑張る人にとって税金の負担を減らす有効な制度になります。

重要なのは、

  • 架空や水増し経費に手を染めないこと
  • 正しく記帳し、証拠を残すこと
  • 迷ったら専門家に相談すること

税務署や国税庁は不正を見抜く体制を強化しています。不正に手を染めれば必ず発覚し、重い代償を払うことになります。

「正しい知識で、正しく節税」
これこそが、副業時代を生きる私たちに求められる姿勢です。


📌 参考:
日本経済新聞朝刊(2025年10月4日付)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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