自動車メーカー研究開発費の行方(第3回)各社の戦略と特徴

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国内完成車メーカー7社の研究開発費は、2026年3月期に合計3兆9,440億円(売上高比率3.92%)に達する見通しです。前回は全体像を整理しましたが、今回はそれぞれのメーカーがどの分野に重点を置き、どう未来戦略を描いているのかを見ていきます。


1. トヨタ自動車:SDVで「ソフトウェア企業」化へ

トヨタは1兆3,700億円(前年比3%増)と圧倒的な規模で研究開発費を計上。営業減益予想のなかでも投資を緩めない姿勢を示しています。
注目は「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」。車両を購入した後もソフト更新で性能や機能を追加できる仕組みで、スマホのアプリ更新のようにクルマが進化します。
トヨタはEVだけでなくHVやFCV(燃料電池車)も手掛ける「全方位戦略」を掲げていますが、その共通基盤を支えるのがソフトウェアです。


2. ホンダ:EV投資を修正しつつも研究開発比率トップ

ホンダはEV関連の総投資額を当初の10兆円から7兆円に縮小。ただし、2026年3月期の研究開発費は1兆2,000億円規模を維持します。
売上高比率は5.7%で国内メーカー中トップ。EV投資を現実的な水準に修正しつつも、SDVや自動運転、次世代バッテリーといった領域に重点配分する構えです。
「量より質」を重視した戦略へと舵を切ったと言えます。


3. 日産自動車:再建フェーズから「攻め」の姿勢へ

経営再建中の日産は6,300億円(前年比2%増)を計画。エンジニア数を減らさず、人件費増も研究開発費の増加要因となっています。
アナリストの見方では「再建後の成長意欲を市場に示す」狙いがあるとのこと。EV「リーフ」で先行した経験を持つ日産としては、再び技術リーダーの地位を取り戻したいという思惑が透けて見えます。


4. スズキ:成長率トップ、軽量化技術に磨き

スズキは3,000億円(前年比13%増)と、7社で最大の伸び率。EVやSDV関連に約半分を振り向けています。
同社の強みは「軽量・コンパクト」な車作り。電動化すると車体重量が増えるため、軽量化技術は燃費や走行性能を左右する重要テーマです。インド市場など新興国への展開でも、この技術が大きな武器となります。


5. SUBARU:水準維持、長期計画を再検討

SUBARUは前期と同じ1,600億円。大幅な増減はないものの、総額1兆5,000億円規模の電動化投資計画のタイミングや内訳を見直しています。
北米市場に強いSUBARUにとって、電動化と同時に「ブランド価値を維持する走りの性能」を両立させることが課題です。


6. マツダ:独自技術と集中投資

マツダは「スカイアクティブ技術」など独自エンジンで注目されてきました。研究開発費の規模は大手に比べ小さいため、全方位投資ではなく選択と集中が基本。
EVやPHEV(プラグインハイブリッド)開発を強化しつつ、独自性をどう確保するかが鍵です。


7. 三菱自動車:SUV・PHEVにリソース集中

三菱自動車は規模の制約から、SUVとPHEV(アウトランダーPHEVなど)に重点を置く戦略。アライアンス(日産・ルノー)との共同開発を進め、効率的に研究開発を行うのが特徴です。


8. 各社戦略から見える共通課題

各社の投資戦略には違いがあるものの、共通しているのは次の2点です。

  1. EV一辺倒ではなく、SDVや自動運転に資金を配分していること
  2. 短期的な利益減にもかかわらず、研究開発費を維持・拡大していること

特に「ソフトウェアを制するか否か」が未来の競争力を決めると考えられています。


まとめと次回予告

  • トヨタはSDVに注力、ホンダは比率トップで「質」を重視
  • 日産は再建を超えて成長意欲を示し、スズキは軽量化技術を武器に
  • SUBARUは水準維持で長期計画を再検討
  • マツダと三菱は規模の制約下で集中投資

各社の特徴は異なりますが、「次の10年をどう戦うか」が研究開発費の配分に色濃く表れています。

次回(第4回)は、国内メーカーと海外メーカーの比較に焦点を当てます。フォルクスワーゲンやBYDといった海外勢と比べて、日本勢はどこで優れ、どこで後れを取っているのかを見ていきましょう。


👉 参考:日本経済新聞「車7社、研究開発費3.9%」
記事リンク(日経)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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