相続や贈与における非上場株式の評価は、税務実務において重要な論点の一つです。令和7年度税制改正では、防衛特別法人税の創設に伴い、この評価方法に直接影響する通達改正が行われました。
特に注目すべきは、純資産価額方式における法人税率等の合計割合の引上げです。本稿では、この改正の内容と実務への影響を整理します。
純資産価額方式の基本構造
非上場株式の評価において用いられる純資産価額方式は、企業の純資産をベースに株式価値を算定する方法です。
この方式では、帳簿上の純資産をそのまま用いるのではなく、評価替え後の純資産との差額、すなわち評価差額を調整する必要があります。
その際に用いられるのが「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」です。
この金額は、以下の考え方で算定されます。
・相続税評価額による純資産価額
・帳簿価額による純資産価額
→その差額に一定の税率(法人税率等の合計割合)を乗じる
つまり、評価差額に対して将来発生し得る税負担を見込んで控除する仕組みとなっています。
改正のポイント 37%から38%へ引上げ
今回の改正の核心は、法人税率等の合計割合の見直しです。
従来は37%とされていたこの割合が、38%へ引き上げられました。
この変更の背景には、防衛特別法人税の創設があります。これにより、評価において想定される将来の税負担水準が変化したため、それを反映する形で割合が修正されました。
改正後の税率構成は次のとおりです。
・法人税(地方法人税を含む)
・防衛特別法人税
・事業税(特別法人事業税を含む)
・住民税(道府県民税・市町村民税)
これらを合算した割合として、38%が採用されています。
基礎控除額を加味しない理由
防衛特別法人税には基礎控除額が設けられていますが、今回の評価通達ではこの点は考慮されていません。
その理由は、評価方法の簡便性にあります。
純資産価額方式は、多数のケースに適用される標準的な評価手法であるため、個別事情を細かく反映すると計算が煩雑になります。そのため、基礎控除の影響は切り離し、一律の税率として扱う整理がなされています。
この点は、実務上の割り切りとして理解しておく必要があります。
適用時期と実務上の注意点
今回の改正は、以下のタイミングから適用されます。
・令和8年4月1日以後に取得する財産
・対象は相続、遺贈、贈与
したがって、評価時点によって旧37%と新38%が混在する可能性があります。
特に注意すべき点は次のとおりです。
・評価時点の判定ミス
・旧様式の評価明細書の使用
・税率適用の見落とし
なお、評価明細書については、令和8年6月頃に改正が予定されています。
実務への影響 評価額はどう変わるか
法人税率等の合計割合が引き上げられると、評価差額に対する控除額が増加します。
その結果、純資産価額は相対的に減少し、株式評価額は下がる方向に働きます。
つまり、今回の改正は以下の影響を持ちます。
・非上場株式の評価額の引下げ要因
・相続税・贈与税の課税ベースの減少要因
ただし、影響は評価差額の大きさに依存するため、企業ごとに差が生じます。
制度改正の本質 評価と税制の連動
今回の改正は、単なる数値変更にとどまりません。
本質的には、税制改正が評価実務に直接反映される構造を示しています。
非上場株式評価は、将来の課税を見越した調整を行う仕組みであるため、法人税制の変更は必然的に評価ロジックに影響を与えます。
今後も、税制改正の動向を踏まえた評価実務の見直しが継続的に求められることになります。
結論
防衛特別法人税の創設に伴い、純資産価額方式における法人税率等の合計割合は37%から38%へ引き上げられました。
この変更は、非上場株式の評価額に直接影響を与える実務上重要な改正です。
評価差額に対する控除額が増加することで、結果的に株式評価額は引き下げ方向に働きます。適用時期や計算方法の理解を誤ると、評価ミスにつながる可能性があるため、十分な注意が必要です。
税制と評価実務は密接に連動しており、今回の改正はその関係性を改めて示すものといえます。
参考
税のしるべ 2026年4月6日号
防衛特別法人税創設に伴う財産評価基本通達の改正に関する記事