これまで全8回にわたり「相続税の申告のしかた」を解説してきました。
相続税の申告は「相続開始から10か月以内」に申告・納付を行う必要があり、流れを理解して計画的に準備することが何より大切です。
最終回となる今回は、これまでの内容を振り返りながら、相続税申告の流れを「全体像」としてまとめます。
1. 相続税申告の流れ(全体像)
相続税申告は、大きく次のステップに分かれます。
- 相続人と財産の把握
- 財産の評価
- 相続税額の計算
- 書類の準備
- 申告書の作成・提出
- 納付
- 修正・災害時対応(必要に応じて)
この流れを意識して進めれば、期限内にスムーズに対応できます。
2. 相続人と財産の把握
まず「誰が相続人か」を確定し、財産をすべて洗い出します。
- 相続人:戸籍謄本、住民票で確認
- 財産:不動産、預貯金、株式、生命保険、退職金、動産など
- 負債や葬儀費用も忘れずに整理
👉 ポイント:相続財産の「漏れ」があると申告漏れにつながり、後で修正申告や税務調査の対象になる恐れがあります。
3. 財産の評価
財産ごとに「相続税評価額」を算出します。
- 土地:路線価方式・倍率方式
- 建物:固定資産税評価額
- 株式:上場株式は終値や平均額、非上場株式は専門的評価
- 預貯金:残高証明、定期は中途解約可能額
- 動産:市場価格、鑑定評価
👉 ポイント:不動産の評価は税額に大きな影響を与えるため、専門家の関与が有効です。
4. 相続税額の計算
評価額が出たら、基礎控除を引き、課税遺産総額を計算します。
- 基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
- 課税遺産総額を法定相続分で分け、速算表で税額を算出
- 実際の取得割合に応じて按分
さらに、配偶者軽減・未成年者控除・障害者控除・相次相続控除などを適用して最終税額を確定します。
5. 必要書類の準備
申告書に添付するため、多数の書類を揃えます。
- 戸籍・住民票・印鑑証明
- 不動産の登記事項証明書・評価証明書
- 預貯金の残高証明
- 証券会社の残高証明
- 生命保険の支払証明
- 遺産分割協議書
👉 ポイント:書類収集には時間がかかるため、相続開始直後から取りかかることが大切です。
6. 申告書の作成と提出
申告書は税務署に提出します。提出方法は、窓口持参・郵送・e-Taxから選べます。
控除や特例を受ける場合は、申告書に記載のうえ、必要書類を必ず添付します。
👉 ポイント:控除や特例は「申告しないと適用されない」ため、漏れなく申告書に反映させましょう。
7. 納付
納付は現金一括が原則。期限は申告と同じく相続開始から10か月以内です。
- 金融機関・税務署窓口・e-Tax・クレジットカードなどで納付可能
- 延納(分割払い)や物納(財産で納める)も条件を満たせば利用可能
👉 ポイント:納付資金が不足する場合は、生命保険を活用したり早めに資産を換金するなど準備が重要です。
8. 修正申告・更正の請求・災害時の特例
- 誤って少なく申告していた → 修正申告
- 多く納めすぎていた → 更正の請求(5年以内)
- 災害で期限内申告が困難 → 延長・納税猶予・減免の特例
👉 ポイント:申告後も安心せず、誤りや災害時の救済制度を理解しておくことが大切です。
9. 全体のチェックリスト
相続税申告を進める際は、以下をチェックしてみましょう。
- 相続人を確定したか
- 財産をすべて洗い出したか
- 評価額を正しく算定したか
- 基礎控除・税額控除を適用したか
- 必要書類を揃えたか
- 期限内に申告書を提出できるか
- 納税資金を確保したか
まとめ
相続税申告は「財産の洗い出し」から始まり、「評価」「計算」「書類収集」「申告・納付」へと進みます。
期限は10か月。早めに準備を始めればスムーズに進められます。
今回のシリーズを通して、相続税申告の全体像が理解できたと思います。
実際の申告では専門的判断が必要なケースも多いため、不安があれば税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考資料
- 国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

