相続税の申告は、膨大な書類と複雑な財産評価を伴います。そのため、申告後に「誤りがあった」「財産を見落としていた」と気づくケースも少なくありません。
また、申告や納税の途中で大規模災害に遭遇し、期限どおりの対応が難しくなることもあり得ます。
今回は「修正申告」と「災害時の特例」について整理し、申告後や想定外の事態にどう対応すべきかを解説します。
1. 修正申告とは
修正申告とは、相続税の申告後に、税額が本来より少なかったと判明した場合に行う訂正です。
1-1. 修正申告が必要となるケース
- 相続財産の一部を申告漏れしていた
- 財産の評価額を誤って過少に見積もっていた
- 特例の適用要件を満たしていなかった
例:自宅土地を小規模宅地等の特例で80%減額して申告したが、実は適用条件を満たしていなかった場合。
1-2. 修正申告の手続き
修正申告書を作成し、申告した税務署に提出します。
修正申告によって増えた税額については、「申告期限からの延滞税」や「加算税」が課されることがあります。
2. 更正の請求とは
逆に、相続税を払いすぎていた場合には「更正の請求」を行えます。
2-1. 更正の請求のケース
- 適用できる特例を申告で漏れていた
- 評価を誤って高く見積もっていた
- 相続人の数を誤って申告していた
2-2. 請求期限
更正の請求は、原則として「法定申告期限から5年以内」に行う必要があります。
例:本来は生命保険金に非課税枠があるのに申告で控除を忘れた場合、5年以内であれば更正の請求で税金が還付されます。
3. 災害時の特例
地震・台風・豪雨など大規模災害が発生した場合、相続税の申告や納付が困難になることがあります。その場合は、税務署に申請することで救済措置を受けられます。
3-1. 申告・納付期限の延長
災害によって期限内に申告・納付ができないとき、期限の延長が認められることがあります。
- 災害救助法が適用された地域の納税者は、自動的に申告・納付期限が延長される場合が多いです。
- 個別に事情がある場合は「災害による申告・納付等の期限延長申請書」を提出します。
3-2. 納税の猶予
災害で財産が損壊し納税が難しいとき、一定期間納付を猶予してもらえる制度があります。
条件を満たせば、延滞税が免除される場合もあります。
3-3. 財産が減少した場合の減免
災害で財産が大きく減少した場合、相続税そのものが減免されるケースもあります。
例:地震で建物が全壊した、洪水で農地が流失したなど。
4. ケーススタディ
ケース1:修正申告
相続税申告後に、亡くなった方が別の銀行に定期預金を持っていたことが判明。
→ 修正申告を行い、追加の税金を納付。延滞税も課される。
ケース2:更正の請求
相続税申告後に、実は生命保険金の非課税枠を適用し忘れていたことに気づいた。
→ 更正の請求を行い、納めすぎた税金が還付。
ケース3:災害による期限延長
申告期限直前に大規模地震が発生し、自宅が損壊して金融機関からの残高証明も入手できない。
→ 税務署に申請して申告・納付期限の延長が認められる。
5. 実務上のポイント
- 修正申告・更正の請求は「気づいたらすぐに」行動することが重要
- 災害時の特例は「自動的に適用される場合」と「申請が必要な場合」がある
- 税務署からの指摘を待つのではなく、自主的に修正した方がペナルティが軽減される傾向がある
- 相続税は高額になりやすいので、誤りや特例漏れに早く気づけば大きな差になる
まとめ
- 修正申告は「税額が少なすぎたとき」、更正の請求は「払いすぎたとき」
- 期限は更正の請求が5年以内、修正申告は期限なしだが早めが望ましい
- 災害時には「期限延長」「納税猶予」「減免」の特例がある
- 申告後も安心せず、誤りや見落としがないか確認することが大切
シリーズ全体を通じて、相続税申告の流れが一通り理解できる形になりました。
参考資料
- 国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
