日本では「何歳まで働くのか」という問いの前提が大きく変わりつつあります。
日本経済新聞社の世論調査では、70歳以降も働く意向を持つ人が4割を超え、平均回答年齢は68歳となりました。政府も高年齢者雇用安定法を通じて、70歳までの就業機会確保を企業の努力義務としています。
こうした動きは、単に高齢者の働き方の問題にとどまりません。
むしろ、税制や社会保障制度そのものの前提を見直す必要があることを示しています。
本稿では、70歳就労社会において求められる税・社会保障制度の再設計について整理します。
「引退社会」を前提にした制度設計
現在の税制や社会保障制度の多くは、戦後の社会構造を前提に設計されました。
その基本モデルは次のようなものです。
- 20代で就職
- 60歳で定年
- 年金で生活
つまり、
現役世代と引退世代が明確に分かれる社会
を前提として制度が作られていました。
しかし現在では、
- 平均寿命の延び
- 健康寿命の延び
- 労働力人口の減少
などにより、この前提が大きく変わっています。
65歳以降も働く人が増え、70歳まで働くことが現実的になりつつあります。
年金制度の変化
年金制度も、引退後の生活を支える制度から、
働きながら受給する制度
へと変化しています。
例えば、
- 在職老齢年金
- 在職定時改定
などの制度は、高齢期就労を前提に設計されています。
在職老齢年金は、賃金と年金のバランスを調整する制度です。
また、在職定時改定では、働き続けることで年金額が増える可能性があります。
これらは、
高齢期就労を制度的に組み込む仕組み
と見ることができます。
税制の課題
税制においても、高齢期就労は重要なテーマになっています。
現在の税制では、
- 年金は雑所得
- 給与は給与所得
として扱われます。
そのため、
- 年金
- 給与
を合算して課税所得が計算されます。
この仕組みは合理的ですが、働き方が多様化するなかで課題も指摘されています。
例えば、
- 公的年金等控除のあり方
- 高齢者課税の公平性
- 世代間の税負担
などです。
高齢期の所得構造が変化するなかで、税制の見直しも議論されています。
社会保険制度の再設計
社会保険制度も、高齢期就労の広がりに対応する必要があります。
現在の制度では、
- 厚生年金加入は70歳まで
- 医療制度は75歳で後期高齢者医療へ移行
という仕組みになっています。
しかし、70歳以降も働く人が増える場合、制度の前提が変わる可能性があります。
例えば、
- 保険料負担のあり方
- 高齢期の医療費負担
- 就労と社会保険の関係
などが政策課題になります。
労働市場への影響
70歳就労社会は、労働市場にも影響を与えます。
例えば、
- 定年制度の見直し
- シニア人材の活用
- キャリアの長期化
などです。
企業の人事制度も、従来の
- 終身雇用
- 年功賃金
を前提とした仕組みから変化しつつあります。
長期化する職業人生に対応するため、働き方の多様化が進むと考えられます。
人生設計の変化
70歳就労社会では、個人の人生設計も変わります。
従来は
- 学ぶ
- 働く
- 引退する
という三段階の人生モデルが一般的でした。
しかし今後は、
- 学び直し
- キャリアの再設計
- 多様な働き方
などを繰り返す人生が一般化すると考えられます。
このような変化は、教育制度や雇用制度にも影響を与える可能性があります。
結論
70歳まで働く社会は、日本社会の新しい現実になりつつあります。
その意味は単に「働く年齢が延びる」ということではありません。
むしろ重要なのは、
- 年金制度
- 税制
- 社会保険制度
といった社会制度全体を見直す必要があるという点です。
高齢期就労が一般化する社会では、
働きながら年金を受け取る社会
が前提になります。
そのなかで、税と社会保障の制度設計は、今後も重要な政策課題となるでしょう。
参考
日本経済新聞「70歳以降も働く」初の4割 郵政世論調査(2026年3月12日朝刊)
