2027年施行「新・リース会計基準」実務で何が変わる?― 経理担当者が今から準備すべきこと

会計
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2027年4月1日以降開始する事業年度から、新しい「リース会計基準(企業会計基準第34号)」が強制適用されます。
これは上場企業および会計監査が必要な大規模企業が対象ですが、その影響は取引関係のある中小企業にも及ぶ見通しです。

これまでの「オフバランス処理(リース料を費用処理するだけ)」の考え方から一転、リース契約のほとんどが資産と負債の両方を計上する対象になります。
財務諸表の見え方が変わるだけでなく、税務・管理会計・システム面まで広範囲に影響が及ぶため、今からの理解と準備が欠かせません。


◆1. 「リース」の定義が変わる ― 契約書の名前に関係なく判定される

旧基準では「貸手が特定の物件を借手に一定期間使用させる契約」として定義されていました。
新基準ではより抽象的に、「原資産を使用する権利を一定期間、対価と交換に移転する契約」と定義されます。

つまり、「リース契約書」や「賃貸借契約書」と明記されていなくても、以下の3要件を満たせばリース取引とみなされる可能性があります。

  1. 特定資産であること(入替えができない)
  2. 経済的利益のほとんどを借手が享受する
  3. 資産の使用方法を借手が指図できる

この定義拡大により、たとえば以下の取引もリースと判断され得ます。

  • 物流センター内の自社割当スペース
  • 運送委託契約(特定車両を指定している場合)
  • 製造委託先の専用機械
  • 小売店舗の専用什器スペース など

経理部門は、賃借料や外注費・業務委託費の中にリースが潜んでいないかを洗い出す必要があります。


◆2. 会計処理の基本:使用権資産とリース負債を計上する

リースと判定された場合、借手は以下を計上します。

  • 使用権資産:リース負債に前払リース料や付随費用を加えた額
  • リース負債:将来のリース料支払いを割引率で現在価値にした額

このように、バランスシート上に資産と負債の両方が新たに表れることになります。
また、リース料が変動制(インデックス連動型など)の場合は、固定部分のみを負債に含め、売上高連動のような変動リース料は発生時に費用処理します。


◆3. 「短期リース」と「少額リース」は例外にできる

すべての契約を計上対象にするのは実務上負担が大きいため、重要性の乏しいリースは除外が認められます。

▶短期リース

リース期間が1年以内。ただし、更新可能で実質的に継続利用が見込まれる場合は除外できません。

▶少額リース

判断の目安は以下のとおりです。

  • 固定資産計上しない金額(例:20万円未満)
  • 総額300万円以下の取引(数値基準は削除されたが実務上の目安)
  • 原資産の新品価格が5,000ドル以下程度

このうちどの基準を採用するかは会計方針として選択し、継続適用が求められます


◆4. リース期間の見積りと「合理的に確実」の判断

リース契約に「延長」や「解約」の選択権がある場合、単に契約書上の期間だけでなく、延長・解約の可能性を考慮して期間を見積もります。

行使可能性が「合理的に確実」と判断される場合は、それを前提に期間を設定します。
この「合理的に確実」とは、「発生しない可能性よりは高いが、ほぼ確実まではいかない」程度の蓋然性を指します。
数値基準はないため、各社で判断基準を文書化しておくことが求められます。


◆5. 減価償却と税務処理 ― 会計と税務のズレに注意

使用権資産は減価償却の対象になります。
所有権が移転する場合は自社資産と同様に償却し、移転しない場合はリース期間を耐用年数として定額法で償却します。

一方、税務上は従来の「ファイナンスリース/オペレーティングリース」判定を継続します。
したがって、会計上は資産・負債を計上しても、税務ではリース料全額を損金算入できるケースもあり、税務調整が必要になります。

初期は利息負担が大きいため会計上の費用が先行し、後期は減少していく構造(図表3参照)。
リース期間を通算すれば総費用は一致しますが、期間ごとの利益変動には注意が必要です。


◆6. 中小企業への影響 ― 「直接適用なし」でも他人事ではない

中小企業会計要領・指針では、現時点で新基準は未反映。
令和7年度税制改正大綱でも「税務上は従来通り」とされています。
したがって中小企業自体は直ちに適用義務を負いません

しかし、上場企業や大手取引先が新基準を適用する際、契約条件や報告様式の見直しを求められる可能性があります。
特に「使用権資産の特定」を目的に契約書の明確化や区分請求を求められるケースも想定されます。
経理担当者は、取引先からの変更要請に備え、契約管理の整備と影響確認を進めておきましょう。


◆7. 実務上の課題と対応のヒント

(1)社内情報の吸い上げ体制をつくる

リース契約は総務・製造・物流など多部署にまたがります。
経理部が全社的に情報を把握できるよう、契約台帳や申請フローを整備することが重要です。

(2)管理会計・システムの見直し

リース負債計上により、貸借対照表や損益構造が変化します。
管理会計上のKPIや予算比較がズレるため、内部管理用の指標再設計が必要です。

また、契約変更・税務調整を踏まえると、Excel管理には限界があります。
新基準対応の固定資産管理システムの導入を検討してもよいでしょう。


◆おわりに:リース契約を「経営資源」として再評価する機会に

リース会計の新基準は単なる会計処理変更ではなく、
企業が「どんな資産をどのように使っているのか」を透明化する取り組みです。

経理担当者にとっては、煩雑さが増える一方で、資産活用・契約管理の見直しというチャンスにもなります。
2027年の本格適用までに、

  • 契約リストの整理
  • 影響範囲の試算
  • 社内方針の決定
    を早めに進めておきましょう。

📘 参考資料

  • 金森俊亮「経理担当者なら押さえておきたい『新・リース会計基準』のあらまし」『企業実務』2025年5月号経理担当者なら押さえておきたい「新・リース会計基準」のあらまし
  • 企業会計基準委員会「リースに関する会計基準(企業会計基準第34号)」
  • 財務省「令和7年度税制改正大綱」

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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