2026年度診療報酬改定で訪問看護はこう変わる 利用者・家族・事業者が知っておくべきポイント

FP
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厚生労働省は2026年度診療報酬改定で、訪問看護の報酬を「適正化」する方向で見直しを進めています。背景には、高齢者住宅を中心とした訪問看護の急増や、一部事業所による過剰サービス提供の疑念があり、医療保険財政の持続性を確保する必要性が指摘されています。

第4回となる本稿では、改定の主要ポイントと、それによって利用者・家族・事業者にどのような影響が生じるのかを整理します。

1.改定の大枠:訪問看護の「量」より「必要性」へ

今回の見直しの基本的な方向性は、

  • 訪問人数・訪問頻度に応じた報酬をより細かく設定する
  • 短時間・高頻度の訪問には独自の報酬区分を設ける
  • 医療保険による訪問看護の急増を抑制する

といった点にあります。

これまで曖昧だった「大量訪問」や「短時間訪問」の扱いを整理し、より“必要性に応じた”報酬体系へ転換することが狙いです。


2.同一建物訪問の報酬が細分化される方向

現行制度では、

  • 同一建物内で1日3人以上に提供 → 報酬が約半額に減額

という大まかな区分にとどまっています。

改定案では、

  • 3~5人
  • 6~10人
  • 10人以上

といった具合に区分を細かく分け、訪問人数が増えるほど報酬を段階的に低くする方向で検討が進んでいます。

■ 期待される効果

  • 大量訪問による高収益化の抑制
  • 高齢者住宅への“過度な集中”の是正
  • 必要性の低い訪問の削減

■ 懸念点

  • 1施設に多くの利用者を抱えるステーションの収益悪化
  • 看護師の人件費が確保しづらくなる可能性
  • 地域で訪問看護が減少するリスク

改定は適正化が目的とはいえ、事業者側の経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。


3.短時間・高頻度訪問に新しい報酬体系

厚労省が強く問題視しているのが、

  • 「短時間の訪問を繰り返す」
  • 「1回の訪問が5〜10分で終わる」
  • 「見守りのような内容で回数が多い」

といったケースです。

そのため、2026年度改定では、
短時間訪問専用の報酬区分(低単価)を新設する方向です。

■ この見直しで起こる変化

  • 医療的必要性のない訪問が減りやすくなる
  • 訪問内容の記録がより重視される
  • 医師の指示書の内容が具体化される可能性

一方で、短時間でも必要性の高い処置(褥瘡処置・症状急変の予防など)がある場合は、個別に評価する仕組みが求められます。


4.医療保険の訪問看護の利用が抑制方向へ

医療保険による訪問看護は、介護保険より単価が高く、財政負担も大きくなります。近年は高齢者住宅を中心に医療保険の利用が急増しており、

  • 報酬見直し
  • 要件の明確化
  • 指示書の厳格化

などを通じて、医療保険の利用を適正化する政策が強まっています。

これは、

「医療ケアが必要な人には手厚く」
「それ以外は介護保険で対応」

という整理を進める流れでもあります。


5.利用者・家族への影響

改定によって、利用者・家族には以下のような影響が想定されます。

■ メリット

  • 不必要な訪問が減り、質の高いケアが受けやすくなる
  • 医療的必要性に応じてケアがより適正に提供される
  • 訪問看護の「説明責任」が明確になり、内容が見えやすくなる

■ デメリット(懸念)

  • これまで頻繁に訪問があった場合、回数が減る可能性
  • 高齢者住宅での訪問看護が縮小する地域が出る可能性
  • 夜間・早朝の訪問などが減少しやすい

必要な利用者には引き続きケアが提供されますが、訪問頻度が見直されるケースも出てくると考えられます。


6.事業者への影響

■ 大きい影響が予想される事業所

  • 高齢者住宅を集中的に訪問しているステーション
  • 短時間訪問を複数回実施している事業所
  • 医療保険による訪問が多いステーション

これらの事業所は、改定後の収益が大きく変動する可能性があります。

■ 必要となる対応

  • 訪問記録のさらなる充実
  • 医師との連携強化
  • “必要性が説明できる”訪問設計
  • 長時間の専門的ケアへのシフト
  • 介護保険との適切な区分

改定は事業所にとって厳しい面もありますが、適正化が進むことで質の高いサービスを提供するステーションが評価される環境に近づくとも言えます。


結論

2026年度診療報酬改定は、訪問看護を取り巻く課題に本格的にメスを入れる重要な転換点となります。
改定によって、

  • 同一建物訪問の大量提供
  • 短時間・高頻度訪問
  • 医療保険の過度利用

が抑制され、より“必要性の高い訪問”が評価される方向に進みます。

利用者にとっては、過剰な訪問が減り、より適切な医療ケアが受けられる環境が期待されます。一方、事業者には訪問内容の透明化とアセスメントの精度向上が求められ、経営面での見直しも必要となるでしょう。

訪問看護は在宅医療の基盤です。
今回の報酬改定を機に、「必要な人に必要なケアが届く」持続可能な制度設計が進むことが期待されます。


出典

  • 日本経済新聞「過剰な訪問看護是正 厚労省が診療報酬下げへ」(2025年11月29日 朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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