2026年の中小企業賃上げ相場をどう見るか――物価上昇時代の賃金構造

経営

日本では近年、賃金を取り巻く環境が大きく変化しています。長い間、日本経済はデフレ環境の下にあり、賃金はほとんど上昇しませんでした。そのため企業経営の前提も「賃金は大きく上がらない」という考え方に基づいていました。

しかし近年は物価上昇と人手不足が同時に進み、賃金をめぐる状況は大きく変わりつつあります。政府は「構造的な賃上げ」を掲げ、企業にも賃上げを促しています。春季労使交渉では高い賃上げ率が続き、「賃金は上がるもの」という認識が徐々に社会に広がり始めています。

こうした状況の中で、2026年の賃上げはどのような水準になるのでしょうか。本稿では、中小企業の賃上げ動向を中心に、その背景と課題を整理します。


賃上げの流れは継続している

2025年の春季労使交渉では、大企業を中心に高い賃上げ率が実現しました。賃上げ率は5%台後半と、近年では非常に高い水準となりました。中小企業でも賃上げ率は前年を上回り、賃金引上げの動きが広がっています。

こうした流れを踏まえると、2026年の中小企業の賃上げ率は平均でおよそ4%台後半になると予測されています。定期昇給相当分を含めると約4.6%程度の賃上げになるという見方が有力です。

この水準は日本の賃金動向としては高いものですが、物価上昇の影響を考えると必ずしも十分とは言えません。賃金が上昇しても物価がそれ以上に上昇すれば、実質賃金は改善しないからです。


人手不足が賃上げを押し上げる

現在の賃上げを支えている最大の要因は、人手不足です。

日本では少子高齢化が進み、労働力人口は減少しています。その結果、多くの産業で人材確保が難しくなっています。企業は人材を確保するために賃金を引き上げざるを得ない状況にあります。

特に人手不足が深刻とされるのは次のような産業です。

建設業
運輸・物流
情報通信
医療・福祉
専門サービス

これらの産業では人材確保が経営の最優先課題となっており、賃上げは景気の結果というよりも「人材確保のための投資」として行われています。

つまり、日本の賃金上昇は景気循環によるものというよりも、人口構造の変化による構造的な現象になりつつあります。


中小企業の収益環境はまだ厳しい

一方で、中小企業の賃上げには多くの制約があります。

企業収益は回復傾向にあるものの、原材料費や物流費の上昇、エネルギー価格の高騰などが企業のコストを押し上げています。さらに円安による輸入コストの増加も企業経営に大きな影響を与えています。

価格転嫁が十分に進んでいない企業も多く、利益の増加が賃上げに結びつかないケースも少なくありません。その結果、企業の中には人材確保のためにやむを得ず賃上げを行う「防衛的賃上げ」を行うケースも見られます。

このような状況では、賃上げが企業経営の負担になる可能性もあります。特に中小企業では、賃上げの原資をどのように確保するかが重要な課題となっています。


賃上げしても実質賃金は改善していない

もう一つ重要な点は、物価との関係です。

近年、日本では物価上昇が続いており、消費者物価はこの数年間で大きく上昇しています。仮に単年度で5%の賃上げが行われても、累積した物価上昇を考えると実質賃金は必ずしも改善していない可能性があります。

つまり、賃上げが行われていても、家計の生活実感としては豊かになっていないという状況が生まれています。この点は、日本の賃金政策を考える上で重要なポイントです。


賃金戦略は中長期で考える必要がある

本来、賃金水準の引き上げは単年度の対応ではなく、中長期的な賃金戦略の中で計画的に行うべきものです。

企業は自社の収益力、賃金水準、社員の役割や貢献度とのバランスを丁寧に確認しながら賃金政策を設計する必要があります。短期的な賃上げだけでは、持続的な賃金上昇にはつながりません。

また、賃上げを持続可能なものにするためには、生産性向上と価格転嫁の両立が不可欠です。これらが実現しなければ、企業にとって賃上げは大きな負担になってしまいます。


結論

2026年の中小企業の賃上げは、平均で4%台後半という比較的高い水準になる可能性があります。しかし、その背景には人手不足という構造的要因があり、企業の収益力が十分に改善しているわけではありません。

また、物価上昇の影響を考えると、賃上げが必ずしも実質賃金の改善につながっているわけでもありません。今後の賃金政策では、賃上げそのものだけでなく、企業の生産性向上や価格転嫁の仕組みを含めた総合的な対応が求められます。

日本経済が持続的な賃金上昇を実現できるかどうかは、企業の経営戦略だけでなく、労働市場や産業構造の変化とも深く関わっています。賃上げの動向は、今後の日本経済を考えるうえで重要なテーマであり続けるでしょう。


参考

企業実務 2026年3月号
大槻幸雄「2026年の賃上げ相場を予測する」

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