2026年は、企業活動や資本市場のルールが静かに、しかし確実に変わる年になります。その中でも注目されているのが、金融商品取引法の改正によるTOB(株式公開買い付け)ルールの見直しです。
これまで実務上の基準となってきた「3分の1超」という水準が、「30%超」へと引き下げられ、市場内取引も規制対象に含まれることになります。本改正は、M&Aの実務だけでなく、アクティビスト投資家との向き合い方、企業と投資家の対話の在り方にも影響を与えるものです。
TOB義務基準が「3分の1」から「30%超」へ
TOBとは、一定以上の株式を取得して経営に影響を及ぼす場合に、広く株主に対して公開の買い付けを行う制度です。
従来は、議決権の3分の1(約33%)を超えて取得する場合にTOBが義務付けられていましたが、2026年5月からは「30%超」に引き下げられます。
この背景には、株主総会における実態があります。会社分割や合併といった特別決議事項は、3分の2以上の賛成が必要ですが、実際の議決権行使率は必ずしも高くありません。そのため、30%程度の保有でも、事実上の拒否権を持つケースが増えていました。
形式上の基準と実態の乖離を是正する意味で、今回の引き下げは合理的な調整といえます。
市場内取引もTOB規制の対象に
今回の改正では、これまで対象外とされてきた市場内の立会内取引も、TOB規制の対象に含まれます。
従来は、市場内取引には価格形成の透明性や公正性があるという前提がありました。しかし近年では、市場内取引を通じて短期間に大量の株式を取得し、実質的なM&Aを行う事例が増えています。
形式上は市場取引であっても、結果として経営に重大な影響を与えるのであれば、公開性と情報開示を求めるべきだという考え方が、今回の見直しにつながっています。
大量保有報告制度と「共同保有者」の明確化
金融商品取引法では、上場会社の株式を5%超保有した場合、いわゆる大量保有報告書の提出が求められます。
この際、複数の投資家が一定の関係を持って株式を保有している場合、「共同保有者」として合算して判断されます。
これまで問題とされてきたのが、この「共同保有者」の範囲が不明確だった点です。
特定のテーマについて、複数の機関投資家が協働で企業と対話するだけでも、共同保有者とみなされる可能性がありました。その結果、開示負担を避けるために、投資家同士の対話や協働が萎縮するという指摘がなされてきました。
今回の改正では、重要な経営提案を目的としないことなど、一定の要件を満たせば、共同で議決権を行使しても共同保有者に該当しないことが明記されます。これは、建設的なエンゲージメントを促す方向性といえます。
ウルフパック問題と残された課題
一方で、日本市場特有の問題として指摘されてきたのが、いわゆる「ウルフパック戦術」です。
これは、複数の投資家が表向きは独立した行動を取りながら、実質的には協調して株式を買い進め、経営への影響力を高める手法を指します。
今回の改正は、一定の透明性向上には寄与するものの、ウルフパックを完全に防止できるわけではありません。どこまでを協調行動と捉えるのか、その線引きは引き続き実務上の課題として残ります。
結論
2026年の金融商品取引法改正は、形式的な数字の変更にとどまらず、企業支配や投資家行動の実態を踏まえたルール調整といえます。
企業側にとっては、従来よりも早い段階でTOB対応を意識する必要が生じ、投資家との対話やガバナンス戦略の重要性が一層高まります。
一方、投資家側にも、透明性と説明責任がより強く求められる時代に入ったといえるでしょう。
この改正を単なる規制強化と捉えるのではなく、企業と投資家の健全な関係構築につなげられるかどうかが、今後の日本市場の成熟度を左右することになりそうです。
参考
・日本経済新聞「2026年 法律・ルールこう変わる TOB義務『30%超』に」
・金融商品取引法(令和8年改正予定部分の解説資料)
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

