<相続税調査シリーズ(預金以外)」第5回(未収金・立替金・その他編)>未収金・立替金・預り金はどこまで相続財産か──相続税調査で拾い上げられる日常のお金

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相続税調査では、預金や生命保険、貸付金といった「分かりやすい財産」だけが問題になるわけではありません。
むしろ実務で悩ましいのは、未収金や立替金、預り金といった、日常生活の中で自然に生じている金銭関係です。

これらは、相続人にとって
「清算するつもりはなかった」
「家族の中の話だから問題にしていなかった」
という感覚で処理されていることが多く、申告から漏れやすい分野でもあります。

第5回では、相続税調査で未収金や立替金がどのように拾い上げられ、どこまで相続財産として評価されるのかを整理します。

相続税上の「未収金」とは

未収金とは、相続開始時点で、被相続人が受け取るべき金銭の請求権を有していたものを指します。
すでにサービスや支払いが完了しているにもかかわらず、まだ受け取っていない金銭が典型例です。

例えば、

  • 賃料や地代の未収分
  • 立替えていた医療費や介護費の未精算分
  • 親族間での一時的な立替金

これらは、金額が小さくても、請求権が存在していれば相続財産として評価されます。

医療費・介護費の立替が問題になる場面

相続税調査で比較的よく見られるのが、医療費や介護費の立替です。
被相続人が家族の医療費や介護費を立替えて支払っていたケースや、逆に家族が被相続人の費用を立替えていたケースもあります。

ここで問題になるのは、
「その立替金を清算する意思があったのか」
という点です。

清算する前提で立替えていたのであれば、未収金または未払金として整理すべきですが、
当事者の間で清算する意識がなく、事実上の援助として扱われていた場合には、未収金として評価されないこともあります。

親族間の立替払いと相続税調査

日常生活の中では、親族間での立替払いはごく自然に行われます。
食費や生活費、住居関連の支出など、いちいち清算しないことも珍しくありません。

相続税調査では、こうした支出について、

  • 継続的な立替なのか
  • 一時的なものなのか
  • 清算の合意があったのか

といった点が確認されます。

明確に清算する前提で行われていた場合には、金額の大小にかかわらず、相続財産として未収金が認定される可能性があります。

預り金・仮受金が論点になるケース

被相続人が他人の資金を一時的に預かっていた場合、その金銭は原則として被相続人の財産ではありません。
しかし、相続税調査では、そのお金の性質が明確でない場合に論点になります。

例えば、

  • 家族から一時的に預かっていた資金
  • 共同で管理していた資金
  • 使途が不明確な入金

これらについて、
「誰の資金なのか」
「返還すべきものなのか」
が説明できない場合、相続財産と評価されるリスクがあります。

記録がない取引の扱い

未収金や立替金が問題になりやすい最大の理由は、記録が残っていないことです。
口約束や感覚的なやり取りでは、相続開始後に事実関係を立証することが難しくなります。

相続税調査では、通帳の動きや支出の履歴をもとに、
「これは何の支払いか」
「誰のための支出か」
といった説明を求められます。

説明ができなければ、相続財産として拾い上げられる可能性が高まります。

金額が小さくても無視できない理由

未収金や立替金は、単体では金額が小さいことも多い分野です。
しかし、調査では積み上げて評価されます。

また、金額の問題以上に、
「申告に対する認識の甘さ」
として見られてしまう点も注意が必要です。

小さな論点の積み重ねが、調査全体の印象に影響を与えることもあります。

結論

未収金や立替金、預り金は、相続税調査において見落とされやすい一方で、拾い上げられやすい分野です。
日常の延長線上にある金銭関係であるからこそ、相続税の評価との間にズレが生じやすくなります。

重要なのは、相続開始時点で請求権や返還義務が存在していたのかを、客観的に説明できるかどうかです。
感覚ではなく、事実関係が問われます。

次回は、預金以外シリーズの総まとめとして、
生命保険・貸付金・未収金を横断し、相続税調査が一貫して見ている視点を整理します。

参考

・相続税法における未収金・立替金の評価
・相続税調査実務における金銭債権の取扱い


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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