相続税調査で、預金や生命保険の次に高い確率で問題になるのが、親族間の貸付金です。
生前、子や孫、兄弟姉妹に対して資金を渡していたケースは少なくありません。
当事者の感覚としては、「貸したお金」「いずれ返してもらうつもりだった」「家族だから細かいことはしていない」というものが多いでしょう。
しかし、相続税調査では、そのお金が本当に「貸付金」として存在していたのかが厳しく確認されます。
第4回では、親族間貸付が相続税調査でどのように見られ、どこで否認されやすいのかを整理します。
親族間貸付が問題になりやすい理由
親族間貸付が調査で問題になりやすい理由は、取引の実態が曖昧になりやすい点にあります。
第三者間の貸付であれば当然行うはずの手続きが、省略されがちだからです。
借用書がない、返済期限が決まっていない、利息を取っていない、返済の記録がない。
こうした状況は、家族間では珍しくありません。
しかし、相続税の世界では、
「返ってくる可能性のある金銭的権利が存在したのか」
という視点で評価されます。
相続税上の「貸付金」とは
相続税において貸付金とされるためには、相続開始時点で、
被相続人が返還請求権を有していたと認められる必要があります。
つまり、
- 返してもらう意思があったのか
- 返済が予定されていたのか
- 実際に返済が行われていたのか
といった点が重要になります。
形式的に「貸したつもり」であっても、
返還を期待していなかったのであれば、相続税上は貸付金とは評価されません。
貸付金として否認されやすいケース
相続税調査で貸付金として否認されやすいのは、次のようなケースです。
- 借用書が作成されていない
- 返済期限が定められていない
- 利息の取り決めがない
- 返済の実績が一切ない
- 返済を求めた形跡がない
これらが重なる場合、
「実質的には贈与や生活費の援助ではないか」
と評価される可能性が高くなります。
借用書があっても安心できない理由
借用書が作成されていれば安心だと考えられがちですが、それだけで十分とは言えません。
相続税調査では、借用書の存在よりも、その内容と実態が重視されます。
例えば、借用書があっても、
返済期限が曖昧、返済が一度も行われていない、利息もないという場合には、
形式だけ整えたものと評価される可能性があります。
名義預金や生命保険と同様、
貸付金においても形式と実態の一致が重要です。
貸付金として認められやすいケース
一方で、親族間であっても、貸付金として認められやすいケースもあります。
- 借用書が作成されている
- 返済期限や返済方法が定められている
- 実際に返済が行われている
- 返済が滞った場合に催促している
これらが確認できれば、
相続開始時点で返還請求権が存在していたと説明しやすくなります。
回収不能貸付の扱い
親族間貸付では、借主の返済能力が低下しているケースも少なくありません。
この場合、「返ってこないから相続財産ではない」と考えてしまいがちです。
しかし、返還請求権自体が存在していれば、
原則として貸付金は相続財産に含める必要があります。
回収不能かどうかは、
相続開始時点で客観的に判断されます。
単に「返してもらうつもりがなかった」という説明だけでは足りません。
結論
親族間貸付は、相続税調査において非常に多くの争点を生む分野です。
「貸したつもり」という感覚と、相続税上の評価との間には、しばしばズレが生じます。
重要なのは、相続開始時点で返還請求権が存在していたかどうかです。
形式だけでなく、返済の実態や当事者の意思が問われます。
次回は、未収金や立替金、預り金など、
日常生活の延長線上で生じやすい金銭関係が、相続税調査でどのように拾い上げられるのかを整理します。
参考
・相続税法における貸付金の評価
・相続税調査実務における親族間貸付の取扱い
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
