前回は、相続税調査において生命保険がどのように確認されるのか、契約者・被保険者・受取人の組み合わせを中心に整理しました。
形式上の契約関係が整理できていても、相続税調査では「それで終わり」にはなりません。
実務では、生命保険金が特に問題にならずに終わるケースもあれば、
逆に、相続人が想定していなかった形で争点になるケースもあります。
第3回では、生命保険金が相続税調査で争点になりやすいケースと、比較的問題になりにくいケースを整理し、名義預金との共通点と違いを確認します。
生命保険金が争点になりにくい典型例
比較的トラブルになりにくいのは、
被相続人が契約者かつ被保険者で、相続人が受取人となっている生命保険です。
この場合、生命保険金は相続税の課税対象となることが前提とされ、
非課税枠の適用も含めて申告されていれば、調査で大きな争点になることは多くありません。
保険料の負担関係も明確で、契約内容と実態が一致しているため、
税務署としても評価しやすいケースと言えます。
争点になりやすいのは「形式と実態のズレ」
一方で、生命保険金が争点になりやすいのは、
契約書上の形式と、実際の資金の流れにズレがあるケースです。
例えば、形式上は子が契約者となっているものの、
保険料の原資は被相続人の預金から支払われていた場合です。
このような場合、
「実質的な契約者は誰か」
という点が問題になります。
名義預金と同様、
生命保険においても名義だけで判断されることはありません。
保険料負担者が問われる理由
生命保険で特に重視されるのが、保険料を誰が負担していたのかという点です。
生命保険金は、保険料の積み重ねによって形成された財産と考えられます。
そのため、
- 契約者名義
- 保険料の支払口座
- 実際の資金の出どころ
これらが一致していない場合には、実態の確認が行われます。
被相続人が実質的に保険料を負担していたと認められれば、
契約者名義が誰であっても、相続税の対象として扱われる余地が出てきます。
名義預金との共通点
生命保険と名義預金には、共通する考え方があります。
それは、「形式より実態を重視する」という点です。
- 名義預金では、通帳の名義より管理・支配
- 生命保険では、契約者名義より保険料負担
が重視されます。
いずれも、表面的な名義を整えるだけでは足りず、
実際に誰の財産として形成・管理されてきたのかが問われます。
名義預金との違い
一方で、生命保険には名義預金とは異なる側面もあります。
生命保険は、死亡という事実を契機として一時に多額の金銭が支払われるため、
課税関係が明確に切り替わる点が特徴です。
また、生命保険には非課税枠が設けられていることから、
相続税対策として意識的に利用されることも多くあります。
その分、
「非課税枠があるから大丈夫」
「受取人固有の財産だから関係ない」
といった誤解が生じやすい分野でもあります。
相続人間トラブルにつながるケース
生命保険金は、相続財産とは別に受取人に直接支払われることが多いため、
相続人間の感情的な対立につながることもあります。
相続税調査では、こうした背景事情も踏まえつつ、
保険金の帰属や課税関係が確認されます。
形式的に問題がないように見えても、
資金の流れに不自然な点があれば、調査の対象となります。
結論
生命保険金が相続税調査で争点になるかどうかは、
契約書の記載だけで決まるものではありません。
保険料の負担関係を含め、
実態として誰の財産として形成されてきたのかが判断の軸になります。
名義預金と同様、
生命保険においても「名義ではなく実態」という考え方が貫かれています。
次回は、相続税調査で非常に多く問題になる、
親族間の貸付金について、貸付と評価される場合・されない場合の分かれ目を整理します。
参考
・相続税法における生命保険金の課税関係
・相続税調査実務における生命保険の判断事例
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
