相続税調査というと、まず預金の確認が思い浮かびます。
実際、名義預金は相続税調査で最も頻繁に問題となる論点の一つです。
しかし、調査は預金だけで終わりません。
生命保険、親族間の貸付金、未収金や立替金など、預金以外の財産についても、同じ発想で確認が行われます。
本シリーズでは、名義預金シリーズで整理した考え方を前提に、
相続税調査において、預金以外の財産がどのように見られ、どこで問題になりやすいのかを整理してきました。
本稿では、生命保険・貸付金・未収金といった論点を横断し、
相続税調査が一貫して見ている視点と、実務上押さえておくべきポイントをまとめます。
相続税調査の判断軸は一つ
相続税調査で扱われる財産の種類はさまざまですが、判断の軸は一つです。
それは、相続開始時点で、その財産は誰に帰属していたのかという点です。
- 名義が誰か
- 契約書があるか
- 形式上どうなっているか
これらは参考にはなりますが、決定打ではありません。
調査では、実質的に誰の財産として形成・管理されてきたのかが問われます。
この考え方は、預金に限らず、すべての財産に共通しています。
生命保険に共通する見られ方
生命保険については、契約者・被保険者・受取人という形式がまず確認されます。
しかし、それだけで結論が出るわけではありません。
調査で重視されるのは、
保険料を誰が負担してきたのかという点です。
形式上の契約者と、実際の保険料負担者が異なる場合、
実質的な帰属が問題になります。
生命保険もまた、「名義ではなく実態」で判断される代表的な分野です。
親族間貸付に共通する見られ方
親族間貸付では、
「貸したつもり」「いずれ返ってくるはずだった」
という感覚と、相続税上の評価がずれることが少なくありません。
相続税調査で問われるのは、
相続開始時点で返還請求権が存在していたかです。
借用書の有無だけでなく、
返済実績、返済を求める意思、実際の取扱いが確認されます。
返ってくる可能性のある権利が存在していれば、
それは相続財産として評価されます。
未収金・立替金に共通する見られ方
未収金や立替金は、相続人自身が財産と認識しにくい分野です。
しかし、相続税調査では、金額の大小にかかわらず拾い上げられます。
調査で問われるのは、
相続開始時点で請求権や返還義務が存在していたかという点です。
清算するつもりがあったのか、
単なる援助だったのか、
当事者間の認識と実態が重要になります。
共通して見られているポイント
生命保険、貸付金、未収金を横断すると、
相続税調査で共通して見られているポイントが浮かび上がります。
- 資金の原資は誰のものか
- 管理・支配を誰がしていたか
- 実際に誰の意思で動かされていたか
- 当事者はその財産をどう認識していたか
これらを総合的に見て、
相続開始時点の帰属が判断されます。
「対策」より重要な視点
相続税の世界では、
「この書類があれば安心」
「この手続きをしておけば大丈夫」
といった万能の対策は存在しません。
重要なのは、
形式と実態が一致しているかという点です。
無理に整えた形式よりも、
日常の管理や扱い方が自然で一貫している方が、
結果として説明しやすくなります。
生前から意識しておきたいこと
相続税調査は、相続が発生してから始まりますが、
評価されるのは生前の積み重ねです。
生前から意識しておきたいのは、次の点です。
- 誰の財産なのかを曖昧にしない
- 名義と実態を一致させる
- 「つもり」や「感覚」で処理しない
これらを意識するだけでも、
相続発生後の負担は大きく変わります。
結論
相続税調査で問われているのは、節税の巧拙ではありません。
財産の帰属に関する実態です。
生命保険、貸付金、未収金といった預金以外の財産も、
名義預金と同じ発想で見られています。
相続税調査の視点を理解し、
形式と実態を一致させておくことが、
将来のトラブルを防ぐ最も現実的な備えだと言えるでしょう。
本シリーズが、相続税と向き合う際の整理軸として、
長く手元に残るものになれば幸いです。
参考
・相続税法における財産帰属の基本的な考え方
・相続税調査実務における生命保険・貸付金・金銭債権の取扱い
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
