<シリーズ第4回>贈与契約書・111万円贈与はどこまで有効か──名義預金対策に関する誤解

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名義預金の相談を受けていると、次のような話を耳にすることがあります。
「毎年、贈与契約書を作っているから大丈夫」
「111万円贈与して、あえて贈与税を申告しているから安心だ」

これらはいずれも、名義預金対策として広く知られている方法です。
しかし、相続税調査の実務では、これらの対策がそのまま名義預金否定につながるとは限りません。

第4回では、贈与契約書や111万円贈与がどのような意味を持ち、どこに限界があるのかを整理します。

贈与契約書の位置づけ

贈与契約書は、贈与の意思表示と受諾があったことを示す資料です。
書面として残っている点で、贈与の存在を裏付ける一つの証拠にはなります。

しかし、相続税調査において重要なのは、「契約書があるかどうか」ではなく、「その契約内容どおりの実態があったかどうか」です。
贈与契約書があっても、被相続人が通帳や印鑑を管理し、預金を自由に動かしていたのであれば、その契約は形式にとどまると評価される可能性があります。

つまり、贈与契約書は有効条件ではあっても、十分条件ではありません。

契約書があっても否定される理由

贈与契約書があっても名義預金と判断される背景には、実質課税の考え方があります。
税務署や裁判所は、書類の存在よりも、実際の管理・支配の状況を重視します。

例えば、契約書上は贈与されていても、名義人が預金の存在をほとんど認識しておらず、使途の判断もしていなかった場合には、贈与が実質的に成立していないと評価されることがあります。
このような場合、贈与契約書は「後付けの形式」と見られてしまいます。

111万円贈与と贈与税申告の意味

111万円を贈与し、贈与税を申告・納税していれば安全だという考え方もよく見られます。
確かに、贈与税の申告書が提出されていれば、贈与が行われたこと自体は明確になります。

しかし、贈与税の申告がされていることと、その財産が相続税の課税対象から外れることは別の問題です。
贈与税の申告があっても、預金の管理・支配が被相続人にあったと認められれば、名義預金として相続財産に含められる可能性があります。

申告は「証拠の一つ」ではありますが、それだけで結論が決まるわけではありません。

なぜ「申告すれば安心」と誤解されるのか

この誤解が生じる背景には、税金の種類の違いがあります。
贈与税は、贈与という行為があったかどうかを前提に課税されます。一方、相続税は、相続開始時点で誰の財産であったかを問います。

つまり、贈与税の申告が正しく行われていても、その後の管理状況によっては、「相続開始時点では被相続人の財産だった」と評価される余地が残るのです。

この時間軸の違いを理解していないと、「申告しているのに、なぜ相続税がかかるのか」という疑問につながります。

実務的に意味のある対策とは

では、贈与契約書や申告は意味がないのでしょうか。
そうではありません。

これらは、贈与の意思があったことを示す補強材料として一定の価値があります。
ただし、それだけに依存するのではなく、実際の管理や使途が名義人の財産として一貫していることが重要です。

形式と実態が一致して初めて、名義預金ではないと説明しやすくなります。

結論

贈与契約書や111万円贈与、贈与税申告は、名義預金対策として万能ではありません。
重要なのは、書類や申告の有無ではなく、その預金が誰の財産として扱われてきたかという実態です。

形式だけを整える対策は、相続税調査の場面では脆さを抱えています。
名義預金問題を避けるためには、実態を伴った贈与であることを、日常の管理の中で積み重ねていく必要があります。

次回は、実際に相続税調査で名義預金を指摘された場合、どのように考え、どう対応すべきかを整理します。

参考

・税のしるべ「第69回/名義預金」
・相続税調査における名義預金に関する裁判例


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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