70歳まで働く人が増えるなかで、年金制度の理解はこれまで以上に重要になっています。
特に関心が高いのが「在職老齢年金」です。
在職老齢年金は、年金を受け取りながら働く場合に、賃金の額によって年金の一部が支給停止される仕組みです。この制度はしばしば「働くと年金が減る制度」として理解されがちですが、本来の制度趣旨はそれだけではありません。
本稿では、在職老齢年金の仕組みと、その制度的な意味を整理します。
在職老齢年金とは何か
在職老齢年金とは、厚生年金を受給している人が会社などで働き続ける場合に、賃金と年金の合計額によって年金額を調整する制度です。
対象となるのは、主に次の人です。
- 厚生年金を受給している
- 会社などに勤務している
- 厚生年金に加入している
つまり、年金受給者でありながら被用者として働いている人が対象になります。
現在の制度では、賃金と年金の合計が一定額を超えると、年金の一部が支給停止になります。
制度の基本構造
在職老齢年金の計算では、次の二つの金額を合計します。
- 基本月額(年金額)
- 総報酬月額相当額(給与と賞与)
この合計額が一定の基準額を超えると、その超過分の一部が年金支給停止になります。
現在の制度では、基準額は
月50万円
となっています。
例えば、
- 年金:月15万円
- 給与:月40万円
の場合、
合計額は55万円となり、基準額を超えるため一部の年金が停止されます。
ただし、すべてが停止されるわけではなく、超過部分の一定割合が調整される仕組みです。
制度が生まれた背景
在職老齢年金は、年金制度の公平性を保つために設けられた制度です。
年金制度は本来、現役時代に保険料を支払い、引退後の生活を支える仕組みです。
しかし、
- 働き続けて十分な収入がある
- それでも年金を満額受け取る
という状態になると、制度の公平性に疑問が生じます。
そこで、一定以上の賃金を得ている場合には、年金を一部調整する仕組みが導入されました。
制度への批判と見直し議論
一方で、この制度には長年にわたり批判もあります。
代表的な指摘は、
高齢者の就労意欲を妨げる
というものです。
例えば、給与が増えると年金が減る場合、
- 働くメリットが小さくなる
- 労働時間を減らす
といった行動が起きる可能性があります。
そのため、政府は制度の見直しを段階的に進めています。
実際に2022年には、基準額が
47万円 → 50万円
へ引き上げられました。
これは、高齢者が働きやすい環境を整えるための措置とされています。
在職老齢年金の本当の意味
在職老齢年金の本質は、単に年金を減らす制度ではありません。
むしろ重要なのは、
高齢期就労を前提とした年金制度
であるという点です。
現在の日本では、
- 65歳以降も働く人が増える
- 70歳就労が一般化する
といった状況が生まれています。
このため、年金制度も
- 引退後の所得保障
- 就労と年金の併存
という二つの機能を持つようになっています。
在職老齢年金は、そのバランスを取る仕組みと言えるでしょう。
高齢期就労社会と年金制度
今後の日本では、高齢期就労はさらに広がると考えられます。
その背景には
- 人口減少
- 人手不足
- 年金財政
といった問題があります。
高齢者が働くことは、
- 労働力確保
- 年金財政の安定
- 社会参加の促進
といった面で重要な意味を持ちます。
そのため、年金制度も「完全引退」を前提とする設計から、
働きながら受給する制度
へと変化しています。
結論
在職老齢年金は「働くと年金が減る制度」として語られることが多い制度です。
しかしその本質は、
- 高齢期就労と年金の調整
- 制度の公平性の確保
という役割にあります。
70歳就労時代においては、
- 年金だけで生活する人
- 働きながら受給する人
といった多様な生活スタイルが生まれます。
そのなかで、在職老齢年金は
働きながら年金を受け取る社会
を支える制度の一つと言えるでしょう。
参考
日本経済新聞「70歳以降も働く」初の4割 郵政世論調査(2026年3月12日朝刊)
