高齢期就労と医療費構造──「働くこと」は医療費を減らすのか、増やすのか

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高齢期就労の拡大は、社会保障財源の持続性を高める手段として期待されています。保険料拠出期間が延び、税収も増える。年金受給とのバランスも改善する可能性がある。

しかし、高齢期就労は医療費構造とどのように関係しているのでしょうか。

働くことは健康維持につながるという見方もあれば、過度な就労は健康悪化を招くという指摘もあります。本稿では、高齢期就労と医療費の関係を構造的に整理します。


医療費の年齢構造

日本の医療費は年齢とともに増加します。特に75歳以上の後期高齢者医療費は全体の大きな割合を占めています。

医療費の特徴は、単純な年齢要因だけでなく、

・慢性疾患の有無
・生活習慣
・要介護状態への移行
・入院期間の長期化

といった要素が重なって決まる点にあります。

つまり、年齢が高いこと自体が問題なのではなく、「健康寿命」との関係が重要です。


就労は健康を改善するのか

高齢期就労には、健康にプラスの側面があります。

・生活リズムの維持
・社会的つながりの確保
・認知機能の刺激
・身体活動量の増加

これらはフレイル予防や認知症予防に寄与するとされています。結果として、医療費や介護費の抑制につながる可能性があります。

特に、週数日・短時間・役割の明確な仕事は、健康維持との相性が良いと考えられます。


過度な就労のリスク

一方で、労働時間自由化が進み、「働ける人はできるだけ働く」構造が強まると、別のリスクが生じます。

高齢者は若年層に比べて回復力が低下しています。過重労働は、

・心血管疾患
・脳血管疾患
・精神的ストレス
・転倒リスク

を高める可能性があります。

短期的には保険料収入が増えても、長期的には医療費や介護費の増大を招く可能性があります。

医療費構造を考えると、「どれだけ働くか」ではなく、「どのように働くか」が決定的に重要です。


医療費構造と就労形態のミスマッチ

現在の医療費は、急性期医療から慢性期医療、介護との連携まで幅広い構造を持っています。

高齢期就労が医療費抑制に寄与するためには、

・慢性疾患の重症化予防
・フレイルの進行抑制
・要介護移行の遅延

が鍵になります。

しかし、長時間労働型の就労は、これらの目標と必ずしも整合しません。

むしろ、短時間・柔軟型の就労の方が、健康維持と医療費抑制の両立に資する可能性があります。


財政視点からの評価

社会保障財源の議論では、しばしば「働けば財源は増える」という単純な図式が語られます。

しかし実際には、

保険料増収 - 医療費増加 - 介護費増加

というバランスで考える必要があります。

もし高齢期就労が健康寿命を延ばす形で機能すれば、医療費構造の改善に寄与します。しかし、過度な競争や長時間労働が広がれば、逆効果になる可能性もあります。

医療費は単なる支出項目ではなく、労働政策と密接に連動する構造的な問題です。


制度設計の方向性

高齢期就労と医療費構造を整合させるには、

・短時間就労の評価制度
・健康管理支援の強化
・在職老齢年金との整合
・企業内の役割再設計

が必要になります。

「長く働くこと」よりも、「無理なく関われること」を重視する制度設計が、医療費抑制と両立しやすいと考えられます。

労働時間自由化が、時間投入型モデルの強化につながるなら、医療費構造との緊張関係は避けられません。


結論

高齢期就労は、医療費抑制に寄与する可能性を持ちます。しかしその効果は、就労の質と量に大きく依存します。

長時間労働型の自由化は、短期的な財源増にはつながっても、健康悪化を通じて医療費増を招くリスクがあります。

重要なのは、「どれだけ働くか」ではなく、「どのように関わるか」です。

人口減少社会においては、一部の人の過度な負担ではなく、多くの人が持続的に参加できる仕組みこそが、医療費構造の安定と社会保障の持続性を支える基盤になります。

高齢期就労を財政手段として捉えるのではなく、健康寿命延伸政策の一環として設計する視点が求められます。


参考

日本経済新聞
門間一夫「働きたい人は働く」でよいのか
2026年2月27日 朝刊 エコノミスト360°視点

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