飲みニケーションの現在地:接待の主役が「飲食」から「ゴルフ」へ移る理由

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新型コロナウイルス禍を経て、企業の接待文化は大きく変わりました。かつては夜の飲み会や会食が取引先との関係づくりの象徴とされていましたが、最近はその構図が揺らいでいます。飲食の接待が縮小する一方、ゴルフの需要が高まり、会員権価格も上昇するなど、新たな動きが広がっています。

本稿では、接待スタイルの変化、交際費の地域差、税制の影響、ゴルフ需要の背景などを整理しながら、企業の接待とコミュニケーションのこれからを考えます。

1 接待の地域差と「西高東低」の背景

帝国データバンクの交際費調査では、2024年度の企業交際費は全国平均で社員1人当たり月2万2823円。コロナ前をまだ下回る水準ですが、西日本では交際費が増える傾向が強く、上位10府県のうち7が西日本に集中しています。

特に熊本県はTSMC進出を契機に海外企業や取引先の交流が活発化し、順位を13位から7位へと大幅に上げました。遠方の企業との関係構築が重要な地域では、接待を通じた関係形成の比重が自然と高まると考えられます。

地域特性によって交際費の役割が変わることを示す好例といえます。


2 接待文化が縮小した背景

コロナ禍で接待文化が大きく後退したのは事実です。

  • 行動制限による飲食店利用の制約
  • オンライン会議の普及により出張や対面での会食が減少
  • 接待を行うこと自体の必要性を見直す機運
  • 経費削減の流れ

これらが合わさり、「夜の飲み会が前提」という価値観が弱まりました。

さらに、飲食接待が減ったことで居酒屋や飲食業の回復は鈍く、経済産業省の活動指数でもコロナ前を下回る水準が続いています。政府は非課税枠の引き上げ(1人5,000円→1万円)を行いましたが、効果は限定的です。

接待文化そのものが構造的に変化しつつあることが読み取れます。


3 ゴルフ接待が急浮上した理由

飲食接待が減る一方、ゴルフは接待の選択肢として存在感を高めています。ゴルフ会員権価格は上昇し、予約確保のため複数の会員権を保有する企業も増えています。

ゴルフが接待として復活した理由には次の背景があります。

① 長時間の共同体験が関係構築に向く

ゴルフは一緒に過ごす時間が長く、雑談や自然な会話が生まれやすいことから、相手との関係を深めやすい特性があります。

② 屋外で実施でき、コロナ禍でも安心感があった

屋外のスポーツであるため、コロナ禍でも比較的実施しやすく、接待需要がゴルフに流れた面があります。

③ 若手・女性のゴルフ参加が増え間口が広がった

ゴルフ人口が減少傾向にある一方、20〜40代では健康志向やレジャー志向で再び注目され、企業としても接待対象層が拡大しています。

④ 企業側の「飲み会前提主義」が薄れた

オンライン会議が定着し、夜の飲み会が必須ではなくなったことで、接待の手段を自由に選べるようになったことも後押ししています。


4 接待の「費用対効果」はどう変わったのか

国税庁の調査では、売上10万円あたりの交際費は2023年度で238円。コロナ禍で一時は193円まで下がりましたが、その後再び増加しつつあります。

この数値が上がるということは、

  • 売上を生み出すための接待コストが増えている
  • 接待の費用対効果が弱まっている可能性

を意味します。

接待を手厚くしたからといって、売上が比例して伸びるとは限りません。接待の「生産性」をどう高めるかが、今後の企業にとって重要なテーマになるといえます。


5 接待改革の方向性:量から質へ

コロナ禍の経験によって、「接待をしなくてもビジネスは成立する」という認識が広がりました。接待が全く不要になったわけではありませんが、次のような変化が顕著です。

  • 接待の目的が明確でない会食は減少
  • 相手の志向に合わせて飲食以外の選択肢が増える
  • 形式的ではなく、内容重視の接待へ移行
  • 接待よりも日常的なコミュニケーションを重視

つまり、接待の“意味”が問い直されているのです。


6 これからの企業接待に求められる視点

接待は税制によって後押しされる面もありますが、本質的には「人と人との信頼関係をつくるための時間」です。

その観点から、今後の接待には以下の姿勢が求められます。

  • 相手にとって何が価値ある時間かを考える
  • 飲食・ゴルフ・文化体験・オンライン交流など選択肢を広げる
  • コストよりも成果(どのような関係を築いたか)を重視する
  • 形式ではなく、共通の目的に沿った接待を行う

このように、接待の再設計が求められています。


結論

接待文化は、コロナ禍を境に大きく変わりました。飲食接待は縮小し、ゴルフ接待の需要が高まり、企業は「量」から「質」へと戦略の見直しを迫られています。

接待がもたらす価値は、コストの大小ではなく、相手との信頼関係が深まる時間を共有できるかどうかにあります。これまでの固定観念から離れ、相手や状況に合わせた柔軟なスタイルが求められる時代です。

接待が本来の役割を果たすためには、税制優遇の有無にかかわらず、「効率」ではなく「意味」を重視したコミュニケーション設計が欠かせません。企業の接待はこれからも進化し続けるでしょう。


参考

・日本経済新聞「飲みノミクス(中)接待なら飲食よりゴルフ」(2025年12月4日)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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