食品消費税ゼロがドラッグストアの収益構造を揺らす理由

FP
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食料品の消費税を2年間ゼロにするという議論が現実味を帯びています。一見すると家計支援策のように見えますが、企業側、とりわけドラッグストア業界には大きな影響を与える可能性があります。

背景にあるのは、消費税の「課税」「非課税」「共通対応」という仕組みです。食品が非課税になった場合、調剤部門の収益構造が変わり、業界再編の動きにも影響を及ぼす可能性があります。本稿では、その構造を整理します。


1.処方薬は「非課税取引」であるという前提

保険診療に伴う医療用医薬品の販売は、消費税法上「非課税取引」に分類されます。

非課税取引の場合、原則として仕入時に支払った消費税は控除できません。つまり、薬局は医薬品を仕入れる際に消費税を支払いますが、販売時には消費税を上乗せできない構造です。

このままでは不公平が生じるため、公定薬価の中に仕入時の消費税相当分が織り込まれています。制度上は補填される仕組みですが、実務上はもう一つ重要な概念があります。それが「共通対応」です。


2.「共通対応」と課税売上比率の仕組み

ドラッグストアは、食品・日用品などの課税取引と、調剤のような非課税取引を併営しています。

処方薬の仕入れは原則非課税取引に対応しますが、一部は自費診療や課税売買に関連するため、実務上は「共通対応仕入」に区分されます。

共通対応仕入の場合、仕入税額控除は次の式で計算されます。

仕入税額 × 課税売上割合

つまり、企業全体の売上に占める課税売上の割合が高いほど、控除できる税額が増えます。

ここがドラッグストアの収益構造のポイントです。


3.食品が「非課税」になると何が起きるか

仮に食品の消費税をゼロにする場合、「税率を0%にする(免税)」のか、「非課税取引にする」のかで影響は異なります。

もし食品が「非課税」となれば、課税売上割合が低下します。

例えば、

・総売上1兆円
・食品2,000億円
・調剤2,000億円
・処方薬仕入1,400億円

と仮定します。

食品が課税の場合、課税売上割合は80%とします。
仕入税額(10%)は140億円、そのうち80%=112億円が控除可能です。

しかし食品が非課税になると、課税売上割合は60%に低下します。
控除額は84億円となり、差額28億円の負担増となります。

食品比率が高い企業ほど影響は大きくなります。


4.調剤M&Aモデルへの影響

近年、ドラッグストア各社は調剤薬局の買収を積極化してきました。

背景には次の構造があります。

・調剤専業薬局は課税売上割合が低い
・ドラッグストアは食品等の課税売上が多い
・統合すれば課税売上割合が上昇
・仕入税額控除が増える

つまり、税制上のメリットも再編の一因でした。

食品が非課税になれば、このメリットが縮小します。
結果として、

・調剤買収の経済合理性が低下
・買収価格の提示余力が縮小
・業界再編の減速

といった影響が考えられます。


5.ビジネスモデルそのものへの影響

ドラッグストアのビジネスモデルは、

・利益率の高い医薬品で稼ぐ
・集客力のある食品で来店頻度を高める

という構造で成り立っています。

食品が非課税となり課税売上割合が低下すると、調剤部門の税控除が減り、全体の収益バランスが変わります。

食品比率が50%を超える企業ほど影響は大きくなります。

これは単なる減税政策ではなく、業界構造に波及する政策変更だといえます。


結論

食品消費税ゼロは家計支援策として議論されていますが、制度設計によっては企業側に大きな影響を与えます。

特に、

・非課税方式を採用した場合
・食品比率の高いドラッグストア
・調剤併営モデル

において影響は顕著です。

消費税は単なる税率の問題ではなく、仕入税額控除の構造が企業経営に直結します。政策論は、税収や家計支援効果だけでなく、業界構造や再編インセンティブまで含めて検討する必要があります。

減税は常に「誰かにとっての増税」または「誰かの収益構造の変化」を伴います。制度設計の細部が、想定外の副作用を生む可能性がある点に注意が必要です。


参考

日本経済新聞
「消費減税論、ドラッグストア揺らす」2026年2月13日夕刊


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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