米連邦最高裁がトランプ政権の相互関税を違憲と判断しました。
関税を巡る司法判断が、ここまで明確に大統領権限を制限したことは象徴的です。
もっとも、市場は単純な「関税撤廃=好材料」とは受け止めていません。
政権は直ちに代替の10%関税を発動すると表明し、関税政策の不確実性は依然として残ります。
本稿では、今回の違憲判決の法的意味、代替関税の制度的枠組み、市場の反応、そして今後の政策リスクを整理します。
1.最高裁が否定したもの──IEEPAの限界
最高裁は、トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に発動した関税について、「IEEPAは関税賦課権限を大統領に与えていない」と明確に判示しました。
米憲法では、関税を課す権限は連邦議会に属します。
IEEPAは本来、経済制裁や資産凍結などの緊急措置を想定した法律であり、恒常的な関税政策を包括的に委任する趣旨ではない、というのが最高裁の判断です。
これは単なる政策判断ではなく、「権力分立」の原則を再確認する判決です。
もっとも、既に徴収された関税の還付については明確な判断が示されておらず、ここが次の法的争点となる可能性があります。
2.なぜ「代替10%関税」が可能なのか
違憲判決を受け、トランプ氏は1974年通商法122条に基づき、全輸入品に対する10%関税を発動すると表明しました。
同条は、深刻な国際収支赤字への対抗措置として、最大15%の関税を150日間限定で課すことを認めています。
ここが重要です。
IEEPAは否定されましたが、他の通商関連法は依然として有効です。
さらに政権側は、以下の法的手段も示唆しています。
・通商法301条(不公正貿易への制裁関税)
・通商拡大法232条(国家安全保障を理由とする関税)
ただし、これらはいずれも事前調査や議会調整を要し、発動まで数カ月以上を要します。
すぐに全面的な関税復活とはならない点が、市場に一定の安心感を与えました。
3.市場の反応──「好材料」だが手放しではない
違憲判決を受け、米ダウ平均は230ドル上昇しました。
欧州株も高級ブランドや自動車株を中心に上昇しています。
市場が好感した理由は三つあります。
第一に、企業の関税負担軽減への期待。
第二に、インフレ圧力緩和によるFRB利下げ観測の高まり。
第三に、法的歯止めがかかったことによる政策リスクの一部後退。
ただし上昇は持続的とは言えませんでした。
理由は明確です。
IEEPAは否定されたものの、「関税政策そのもの」が終わったわけではないからです。
政権は法的手段を組み替えながら関税水準を維持する可能性があります。
これは企業にとって、引き続き投資判断を難しくする不確実性要因となります。
4.欧州の受け止め方──ルール重視のメッセージ
欧州産業界は概ね歓迎姿勢を示しました。
「ルールに基づく貿易秩序を支持する判決」という評価が目立ちます。
もっとも、EUとしては「今後米国がどの法律を使って関税を再設計するのか」を慎重に見極める姿勢です。
つまり、
・関税そのものが消えたわけではない
・交渉カードとしての関税は引き続き活用される可能性がある
という現実的な認識です。
5.本質的な論点──市場は何を見ているのか
今回の株高は、関税政策の評価というよりも、
・AI投資拡大
・景気底堅さ
・利下げ期待
といったマクロ要因が主因です。
実際、相互関税発表後に世界株は一時急落しましたが、その後は回復し、ダウ平均は発表前より大きく上昇しています。
市場は「関税が成長を生んだ」とは評価していません。
むしろ、関税による混乱を吸収できるほど企業収益が強い、という解釈の方が近いでしょう。
ただし、政策の不確実性が長期化すれば、設備投資や国際サプライチェーン再編に影響が出る可能性は否定できません。
結論
今回の違憲判決は、米国における権力分立の再確認という点で重要な意味を持ちます。
しかし、関税政策そのものが終わったわけではありません。
IEEPAは否定されましたが、通商法122条、301条、232条といった別の法的手段が残されています。
市場は短期的には好感しましたが、政策不確実性は依然として残存しています。
今後の焦点は、
・徴収済み関税の還付問題
・301条・232条の発動有無
・議会との力関係
・大統領選を見据えた政治判断
に移ります。
司法が「ノー」を突きつけても、政策は形を変えて続く可能性があります。
その中で企業と投資家は、法制度の枠組みと政治動向の両方を見ながら判断する局面に入っています。
参考
日本経済新聞
・米、代替10%関税発動へ 最高裁「違憲」判決受け(2026年2月21日夕刊)
・NY株230ドル高 企業の負担減期待(2026年2月21日夕刊)
・「関税違憲」欧州影響探る(2026年2月21日夕刊)
・違憲判決で欧州株上昇(2026年2月21日夕刊)
・「関税違憲」でも踊れぬ市場(2026年2月21日夕刊)

