銅価格が最高値圏で推移しています。
足元では在庫が積み上がり、統計上は余剰が確認されているにもかかわらず、価格は高止まりしています。
背景にあるのは、人工知能(AI)インフラ、再生可能エネルギー、電気自動車(EV)、防衛産業といった新産業の拡大です。さらに米中両国が銅を「戦略物資」と位置付け、備蓄を強化する動きも鮮明になりました。
銅は単なる工業用金属ではなく、地政学と産業政策の交差点に立つ資源へと変貌しつつあります。本稿では、価格高騰の構造、国家備蓄の意味、そして長期的な需給構造の変化を整理します。
足元は余剰、それでも価格は高いという逆説
国際指標であるロンドン金属取引所(LME)の銅3カ月先物は、1トン1万3000ドル台と過去平均を大きく上回る水準にあります。
一方で、国際銅研究会(ICSG)の統計では、直近は精錬銅ベースで余剰が確認されています。主要市場の在庫も増加しています。
通常であれば価格は下落圧力を受けるはずですが、今回はそうなっていません。
理由は明確です。
市場が見ているのは「現在」ではなく「2030年以降の供給不足」です。
S&Pグローバルなどの分析では、新規鉱山開発が進まなければ2030年を境に生産はピークアウトし、2040年には大幅な供給不足に陥る可能性があると指摘されています。
つまり、価格は将来の構造的不足を織り込み始めているのです。
AI・再エネが生む“電線革命”
銅需要を押し上げている最大の要因は電力インフラです。
・データセンターの急増
・生成AIによる電力消費の拡大
・再エネ発電設備の増設
・送配電網の更新
・EVの普及
これらはいずれも銅を大量に消費します。
特にAIインフラは、半導体だけでなく、冷却設備、変圧設備、送電設備を含む巨大な電力システム全体を必要とします。銅はその中心素材です。
新産業向け需要は2030年にかけて急増するとの予測もあり、従来の景気循環型需要とは異なる構造的な押し上げ要因となっています。
銅は「デジタル経済の配線材」としての役割を担い始めています。
国家備蓄という新たな価格要因
もう一つの注目点は、米中両国の備蓄強化です。
米国は銅を重要鉱物リストに追加し、戦略的備蓄を拡大する方針を示しました。仮に需要の一定日数分を備蓄するとなれば、市場在庫を上回る規模の買いが発生する可能性もあります。
中国も戦略備蓄の増強を検討しており、商業備蓄制度の創設も視野に入れています。
これは何を意味するのでしょうか。
それは、銅が「市場商品」から「安全保障資源」へと位置付けが変わったということです。
国家が買い手になると、価格形成は投機や実需だけでなく、政策判断に左右されます。これは価格変動のボラティリティを高める要因になります。
銅は“新しい石油”なのか
かつて石油はエネルギー安全保障の象徴でした。
現在、銅は電力安全保障の象徴になりつつあります。
ただし、石油と決定的に異なる点もあります。
石油は消費されますが、銅はリサイクル可能です。
また、技術進歩により代替材料が登場する可能性もあります。
それでも、エネルギー転換とデジタル化が進む限り、銅の基礎需要は強固です。
市場は「循環的価格」から「構造的価格」へと評価軸を移し始めています。
日本企業への示唆
日本は資源輸入国です。銅価格の高騰は製造業のコストに直結します。
・電線メーカー
・半導体装置関連
・自動車メーカー
・商社
これらの企業は、価格変動リスクへの対応が重要になります。
同時に、リサイクル技術や代替素材開発を強みとする企業にとっては、新たな競争優位の機会ともなります。
銅問題は単なる商品市況ではなく、産業戦略そのものです。
結論
銅価格の高止まりは、短期的な投機だけでは説明できません。
AI、再エネ、防衛、そして国家備蓄。
複数の構造要因が重なり、銅は戦略資源へと格上げされています。
余剰があっても価格が下がらないのは、市場が未来の不足を織り込んでいるからです。
銅は、エネルギー転換とデジタル化という二つの潮流が交差する地点にあります。
この動きをどう読み、どう備えるか。
それは企業戦略だけでなく、国家戦略の問題でもあります。
参考
日本経済新聞「最高値圏の銅、米中綱引き」2026年2月27日朝刊
国際銅研究会(ICSG)統計資料
S&Pグローバル・エナジー レポート
CRU需要予測資料

