都心中古マンション市場に生じる価格乖離と実需の限界

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東京都心の中古マンション市場に、これまでとは異なる変化が見え始めています。売り出し価格は上昇を続ける一方で、実際に成約する価格の伸びは鈍化し、その差が拡大しています。この現象は、単なる価格調整というよりも、実需層の購買力の限界を示唆する重要なサインといえます。本稿では、都心中古マンション市場の構造変化を整理し、その背景と今後の展開を考察します。


売り出し価格と成約価格の「ワニの口」現象

都心3区(千代田区・中央区・港区)の中古マンション市場では、売り出し単価と成約単価の差が拡大しています。売り出し価格は売主の期待や相場観が反映されやすく、強気に設定される傾向があります。一方で、成約価格は買主の支払能力と金融環境を反映した現実的な価格です。

近年は両者が同時に上昇してきましたが、足元では成約価格の伸びが減速し、売り出し価格のみが上昇する状況が生じています。この乖離は、市場における価格発見機能の転換点を示している可能性があります。

価格が上昇している局面では、売り出し価格の強気設定も成約に至りやすくなります。しかし、実需層の購買力が限界に近づくと、売り出し価格は上がっても、実際の成約には至らない物件が増えていきます。現在の状況は、まさにその局面に差しかかっているといえます。


年収倍率17倍という異例の水準

新築マンション価格(70㎡換算)と平均年収の比率である「年収倍率」は、東京都で17倍に達しています。一般に5~7倍が現実的な購入目安とされるなかで、17倍という水準は極めて高い状態です。

共働き高収入世帯、いわゆるパワーカップルが実需を支えてきましたが、その層であっても購入余力が縮小しています。住宅ローン金利が上昇基調にあるなかで、借入可能額の伸びも抑制されやすく、価格上昇を吸収する余地は限られます。

この構図は、価格が「期待」で上がり、「所得」で止まるという市場の基本原理を改めて示しています。


投機マネーと短期転売の影響

中古市場の高騰には、投機的資金の流入も影響してきました。築浅物件の短期転売率が上昇していることは、その一端を示します。

価格上昇が続く局面では、キャピタルゲイン期待が市場を押し上げます。しかし、実需が追いつかなくなれば、投資目的の買いも慎重になります。売り出し価格と成約価格の乖離拡大は、投機マネーの勢いにも変化が生じつつある兆候と見ることもできます。


下落しにくい構造的要因

もっとも、直ちに価格が大幅下落するとは限りません。建築コストの上昇、適地不足、新築供給の制約といった構造的要因が存在するためです。

供給制約が強い都心市場では、需要が多少減速しても価格が急落しにくい特徴があります。結果として、「価格は高止まりし、成約件数が減少する」という調整パターンをたどる可能性が考えられます。


賃貸市場への波及

購入を断念した世帯が賃貸市場にとどまることで、賃料にも上昇圧力がかかっています。掲載賃料の上昇に対し、需要を示す反響賃料の伸びが鈍い状況は、賃貸市場でも実需の限界が意識されていることを示します。

消費者物価指数においても、23区の民営家賃は上昇傾向が続いています。住宅取得のハードル上昇が、賃貸市場の逼迫につながるという連鎖が生じています。


政策対応の方向性

国土交通省は住宅金融支援機構への出資積み増しを通じ、残価設定型住宅ローンの提供を支援する方針を示しています。

住宅金融支援機構

また、東京都は官民ファンドを活用したアフォーダブル住宅の供給に乗り出しています。

東京都

金融支援や公的住宅供給は一定の下支え効果を持ちますが、価格水準そのものを大きく引き下げる力は限定的と考えられます。


市場は「所得制約」と向き合う段階へ

都心中古マンション市場は、これまでの「流動性相場」から「所得制約相場」へと移行しつつあります。

売り出し価格と成約価格の乖離は、期待と現実のズレを可視化する指標です。価格が上がるか下がるかという単純な議論ではなく、「誰が買えるのか」「どの水準が持続可能か」という問いが重要になります。

住宅は消費財であると同時に資産でもあります。しかし、最終的に価格を支えるのは実需の購買力です。今後の都心市場は、金融政策、所得環境、供給制約の三要素のバランスのなかで、新たな均衡点を探る局面に入ったといえます。


参考

日本経済新聞「都心中古マンション、開く価格差 売り出し時と成約時」2026年2月26日朝刊
東日本不動産流通機構 公表データ
東京カンテイ 中古マンション価格調査
総務省 消費者物価指数(民営家賃)
LIFULL 不動産市場データ

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