近年、東京都と地方の税収格差が改めて大きな政策テーマになっています。
2026年度与党税制改正大綱では、法人事業税の配分見直しや、東京23区の土地にかかる固定資産税の再配分検討など、新たな方向性が示されました。
なぜ今、ここまで踏み込んだ議論が必要になっているのでしょうか。本稿では、地方交付税制度の限界と、今後の是正手法の方向性について整理します。
地方財政を考える3つの段階
地方財政を理解するには、次の三段階で考える必要があります。
- 財政需要を把握する
- どの財源で需要を満たすかを考える
- 需要と課税力の差を財政調整で埋める
この3番目を担う制度が地方交付税です。
地方交付税は、基準財政需要額に対して基準財政収入額が不足する部分を補う仕組みです。理論上は、これによって地方間の財政力格差は是正されるはずです。
しかし現実には、是正しきれない財源が増えています。
「是正不能財源」が拡大している
近年注目されているのが「是正不能財源率」です。
これは、地方交付税によっても調整できない財源が、標準財政規模に占める割合を示します。
財政力指数の高い自治体ほど、この割合も高く、とくに東京都では上昇傾向が顕著です。
なぜこのような現象が起きているのでしょうか。
主な要因は以下の通りです。
- 国税収入の伸び悩みによる交付税原資不足
- 税収格差の想定以上の拡大
- 大都市圏への法人税収の集中
つまり、制度設計が想定していた以上に、税源の偏在が進んでいるのです。
法人課税の偏在とその是正策
地方税の中で偏在度が大きいのは、地方法人課税です。
これまでも、
- 地方法人特別税・譲与税
- 特別法人事業税・譲与税
といった仕組みにより、法人事業税の一部を国税化し、人口などを基準に再配分してきました。
現在、法人事業税の約3割が特別法人事業税として再配分されています。
今回の税制改正大綱では、この特別法人事業税の拡充が示唆されています。
デジタル化が生む「活動地」と「納税地」の乖離
近年の議論をさらに難しくしているのが、経済活動のデジタル化です。
企業の本社所在地に税収が集中する一方、実際の活動地は全国に広がっています。
フランチャイズ展開やデジタルサービスの普及により、発生地と納税地が乖離する構造が強まっています。
そのため、
- 従業員数などに応じた分割基準の見直し
- 地方譲与税の配分ルールの再設計
といった対応が求められています。
固定資産税の再配分という論点
今回の大綱で注目されるもう一つの論点が、東京23区の土地にかかる固定資産税の再配分です。
固定資産税は、本来、市町村の基幹税です。
東京都と特別区の間では、都区財政調整制度の原資にもなっています。
これを都道府県間の再配分原資とする場合、特別区間の財源配分にも影響が及ぶ可能性があります。
制度の再設計には慎重な議論が不可欠です。
地方自治と連帯のバランス
都市と地方の関係は、単なる「富の再分配」の問題ではありません。
大都市圏は経済活動の中心であり、非大都市圏はそれを支える基盤です。
どちらかが弱体化すれば、国全体が影響を受けます。
税収偏在の是正は必要ですが、
- 地方の自立性
- 合意形成の仕組み
- 制度の透明性
を確保しなければなりません。
ドイツのように地方代表が関与する制度設計なども、今後の検討課題となるでしょう。
結論
地方交付税だけでは、拡大する都市と地方の税収格差を十分に是正できない局面に入っています。
今後は、
- 地方法人課税の分割基準の見直し
- 特別法人事業税など譲与税の拡充
- 固定資産税を含む配分制度の再設計
といった複数の手法を組み合わせる必要があります。
重要なのは、「誰からどれだけ取り、どこへどう配るか」という単純な対立構図ではなく、地方自治と連帯の両立をどう実現するかという視点です。
税制は単なる財源論ではなく、国家の構造設計そのものです。
都市と地方の関係をどう描くのか。その議論は、これから本格化していきます。
参考
日本経済新聞「都市と地方の税収格差(上) 地方交付税では是正困難に」2026年2月16日朝刊
関口智・立教大学教授 論考

