物価上昇と税収増が続くなか、東京都と他の自治体との財政格差があらためて注目されています。
2026年度与党税制改正大綱では、東京都と他の自治体との間で拡大しているとされる財政格差の是正方針が示されました。
本稿では、日本経済新聞「都市と地方の税収格差(下)地方財政制度の総点検を」(2026年2月17日朝刊、片山善博・大正大学特任教授)を参考に、財源超過額の意味、東京都の反論、そして地方交付税制度の構造的課題について整理します。
財源超過額とは何か
論点の中心にあるのが「財源超過額」です。
これは、地方交付税制度における概念であり、基準財政収入額が基準財政需要額を上回る部分を指します。
地方交付税は、自治体が標準的な行政を行うために必要な経費(基準財政需要額)と、標準税率で課税した場合の税収見込み(基準財政収入額)との差を国が補填する制度です。
多くの道府県は基準財政需要額が収入額を上回るため、地方交付税が交付されます。
一方、東京都は基準財政収入額が需要額を大きく上回るため、地方交付税は交付されていません。
この上回る部分が「財源超過額」です。
財源超過額が大きい自治体は、標準的行政を超える独自施策を展開できる余地があります。
子育て給付、水道料金無償化などの独自政策が実施できる背景には、この構造があります。
増収局面で拡大する構造的格差
地方税収が増加する局面では、制度上の仕組みにより格差が広がりやすくなります。
地方交付税の交付団体では、税収が増えるとその75%相当分が地方交付税の減額という形で相殺されます。
仮に税収が100増えても、実質的な増収は25にとどまります。
しかし、東京都のような不交付団体では、税収増はそのまま100増となります。
つまり、同じ経済成長率で税収が伸びたとしても、制度設計上、格差は拡大し得る構造にあります。
東京都の反論
東京都は「財源余剰は存在しない」と主張しています。
主な論点は次のとおりです。
- 財源超過額は地方交付税算定上の理論値にすぎない
- 基準財政需要額には大都市・首都特有の行政需要が十分に反映されていない
- 地方税と地方交付税等を合算し、人口1人当たりで比較すると全国平均と大差ない
この最後の指摘は、従来、国が「地方交付税は適切に機能している」と説明する際に用いてきた指標でもあります。東京都はそれを逆手に取り、自由に使える財源が特段多いわけではないと主張しています。
基準財政需要額は実態を反映しているか
本質的な論点はここにあります。
基準財政需要額は「標準的な行政」を前提に算定されますが、その内容は必ずしも客観的検証を経ているとは言い難く、国の裁量的判断に依存する側面があります。
- 大都市特有の需要が十分に算入されていない可能性
- 人口が少なく効率性を発揮しにくい地域の需要が過小評価されている可能性
双方の問題が存在し得ます。
さらに、地方交付税で本来手当てすべきでない経費が基準財政需要額に含まれている点も見逃せません。
代表例が地方債の元利償還金です。
大型公共事業に伴う地方債の償還が交付税算入されることで、自治体の実質負担が軽減され、結果として過大な施設整備を誘発する側面も指摘されています。
総点検が必要な理由
今回の議論は、単に東京都から財源を移すかどうかという話ではありません。
問われているのは、
- 基準財政需要額の算定方法は妥当か
- 地方交付税制度は財政規律と整合しているか
- 税収増局面で格差が拡大する制度設計は適切か
という、地方財政制度そのものの構造です。
都市と地方の対立構図に単純化するのではなく、制度の透明性と客観性を高めることが不可欠です。
結論
東京都と他自治体の財政格差問題は、財源超過額の有無という表層的議論にとどまりません。
基準財政需要額の算定根拠、地方債償還金の扱い、税収増時の配分構造など、地方財政制度全体の点検が求められています。
今後1~2年の検討期間は、単なる財源再配分の議論に終わらせず、制度のムダや歪みを客観的に検証する機会とすべきです。
地方交付税制度は、日本の地方自治を支える根幹です。
その持続可能性と公平性をどう確保するかが、今まさに問われています。
参考
日本経済新聞 2026年2月17日朝刊
経済教室「都市と地方の税収格差(下)地方財政制度の総点検を」片山善博(大正大学特任教授)

