遺言がないと何が起きるのか ― 相続実務で見える現実

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相続対策というと「節税」が注目されがちですが、実務の現場ではそれ以上に重要なものがあります。それが「遺言の有無」です。

実際には、遺言がないことによって手続きが滞り、相続人同士の関係が悪化し、結果として財産が有効に活用されないケースが少なくありません。

本稿では、遺言がない場合に実務上どのような問題が生じるのかを整理します。


遺言がない場合は「法定相続」に従うしかない

遺言がない場合、相続は民法で定められたルールに従って進みます。

これがいわゆる「法定相続」です。

主な特徴は以下の通りです。

  • 相続人の範囲と順位が固定される
  • 相続分は法定割合で決まる
  • 原則として相続人全員の合意が必要

一見すると合理的な仕組みに見えますが、実務ではここに大きな問題が潜んでいます。


遺産分割協議が成立しないリスク

遺言がない場合、相続財産は一旦「共有状態」となります。

その後、相続人全員で遺産分割協議を行い、財産の分け方を決める必要があります。

しかしこの協議がスムーズに進むとは限りません。

典型的なトラブルは以下の通りです。

  • 相続人同士の意見が対立する
  • 疎遠な親族と連絡が取れない
  • 一部の相続人が協議に応じない

この場合、家庭裁判所での調停・審判に進むことになり、解決までに長期間を要することもあります。


不動産が「動かない資産」になる問題

相続財産の中で特に問題になりやすいのが不動産です。

遺言がない場合、不動産は相続人全員の共有となります。

この状態では、

  • 売却には全員の同意が必要
  • 賃貸や活用にも制約が生じる
  • 一人でも反対すると動かせない

という問題が生じます。

結果として、不動産が「使えない資産」となり、空き家問題につながるケースも少なくありません。


金融資産も自由に使えない

預金や証券口座についても同様です。

遺言がない場合、金融機関は原則として、

  • 相続人全員の同意書
  • 遺産分割協議書

の提出を求めます。

そのため、

  • 葬儀費用の支払い
  • 当面の生活資金の確保

といった場面でも、資金が凍結されるリスクがあります。

近年は一部払い戻し制度もありますが、実務上は制約が多く、完全な解決策とは言えません。


単身者の場合に顕在化するリスク

単身者の場合、この問題はさらに深刻になります。

典型的には、

  • 相続人が遠縁(兄弟姉妹や甥姪)
  • 相続人同士に面識がない
  • 財産の内容が共有されていない

といった状況が多く見られます。

その結果、

  • 手続きが進まない
  • 相続放棄が相次ぐ
  • 最終的に国庫帰属となる

といったケースも現実に存在します。


遺言がある場合との決定的な違い

遺言がある場合、状況は大きく変わります。

主な効果は以下の通りです。

  • 遺産分割協議が不要になる
  • 財産の分け方を明確にできる
  • 特定の人への承継(遺贈)が可能
  • 手続きの迅速化

特に重要なのは、「意思を固定できる」点です。

相続は、被相続人の意思が最も尊重されるべき場面ですが、遺言がない場合、その意思は制度上ほとんど反映されません。


実務上の重要ポイント

遺言の作成にあたっては、形式も重要です。

実務上は、

  • 自筆証書遺言(保管制度の活用が望ましい)
  • 公正証書遺言

のいずれかが中心となります。

特に単身者や相続関係が複雑な場合は、

  • 公正証書遺言の活用
  • 財産の棚卸し
  • 死後事務の整理

まで含めた準備が重要です。


結論

遺言がない場合、相続は法定ルールに従って進みますが、実務では多くの問題が発生します。

特に、遺産分割協議の停滞、不動産の活用制約、金融資産の凍結といった問題は、相続人に大きな負担を与えます。

単身者の増加により、これらの問題は今後さらに顕在化していくと考えられます。

遺言は節税のための手段ではなく、「相続を円滑に進めるためのインフラ」です。

その重要性は、今後ますます高まっていくと言えるでしょう。


参考

・法務省 遺言制度に関する資料
・国税庁 相続税のあらまし
・最高裁判所 家事事件手続に関する資料

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