働き方が大きく変化するなかで、「学ぶ」だけでなく「手放す」ことの重要性が語られるようになっています。
それがアンラーニングという考え方です。
長く働く時代になり、転職も珍しくなくなりました。さらにAIの進展により、仕事のやり方そのものが変わり続けています。こうした環境下では、過去の成功体験や固定観念が、かえって成長の妨げになることがあります。
本稿では、アンラーニングの意味と背景、そして個人・企業双方に求められる姿勢について整理します。
アンラーニングとは何か
アンラーニングとは、これまでの成功体験や固定観念を意識的に手放すことをいいます。
単に忘れることではありません。
「今の環境では不要になった考え方や習慣を一度棚に上げる」という姿勢です。
組織論の分野では2000年以降に海外で研究が進み、日本でも2010年前後から注目されるようになりました。背景には以下のような変化があります。
- 雇用延長によるシニア社員の増加
- 転職市場の活発化
- AIの台頭によるリスキリングの必要性
- ビジネスモデルの急速な変化
環境が変われば、成功パターンも変わります。
過去の正解が、未来の正解とは限らないという前提に立つことが出発点です。
シニア世代に求められるアンラーニング
ある企業では、50代以上の社員を対象にアンラーニング研修を実施しています。
研修では、将来の変化を想定しながら「置いていくもの」と「持っていくもの」を整理するワークを行っています。
「置いていくもの」として挙がったのは、
プライドや過去の武勇伝といった項目です。
年齢を重ねるほど、経験は増えます。
しかし経験は、強みであると同時に「思い込み」になりやすい側面もあります。
- ITは若手のもの
- 自分はもう挑戦しなくてよい
- 若手の邪魔にならないよう控えめでいるべき
こうした遠慮や諦めが広がれば、組織全体の活力も落ちてしまいます。
シニア世代が学び続ける姿勢を示すことは、若手にとっても大きな影響を持ちます。
転職者にとってのアンラーニング
アンラーニングは年齢に限った話ではありません。
転職後に苦戦する要因の一つは、「前職のやり方」をそのまま持ち込むことです。
ある転職者は、前職の成功体験を踏襲し続けた結果、成果が出ずに悩みました。
そこで同僚の行動を観察し、自らの営業スタイルを見直しました。オンライン中心から対面重視へと軌道修正した結果、成果につながりました。
この事例が示すのは、
「環境が変われば、戦い方も変える必要がある」ということです。
成功体験は自信を与えてくれます。
しかし、それに固執すると環境適応が遅れます。
個人の努力だけでは限界がある
もっとも、アンラーニングは個人の意識だけで完結するものではありません。
企業側の支援も重要です。
中途採用者に対して企業文化や仕事の進め方を丁寧に説明する研修を設ける企業もあります。
「前の会社ではこうだった」という思考を責めるのではなく、新しい環境に適応しやすい土台を整えることが求められます。
アンラーニングは、
個人と組織の双方の取り組みで初めて機能します。
AI時代におけるアンラーニング
AIの進展は、アンラーニングの必要性をさらに高めています。
業務の自動化が進むなかで、
従来のやり方に固執していると、生産性や競争力の差が広がります。
特に管理職や専門職ほど、「自分のやり方」が確立しているため、見直しが難しくなります。
しかしAI時代には、
- 仕事を自ら行う人
- 仕事を設計し、AIを使いこなす人
という役割の違いが鮮明になります。
過去の専門性を守ることに固執するよりも、
「どの部分を手放し、どの部分を磨くか」を考える姿勢が重要です。
結論
アンラーニングとは、過去を否定することではありません。
過去を活かすために、不要な部分を整理することです。
- シニア世代は経験を強みに変えるために
- 転職者は新しい環境に適応するために
- 企業は人材の力を最大化するために
アンラーニングという視点が欠かせません。
変化の速い時代において、
「何を学ぶか」だけでなく「何を手放すか」を考えることが、持続的な成長への第一歩となります。
参考
・日本経済新聞 2026年2月17日夕刊「〈ライフスタイル 働く〉過去の価値観、手放そう シニアや転職者『アンラーニング』」

