農家の平均年齢が初めて低下したというニュースは、日本農業にとって一つの転換点を示しています。新規就農や事業承継が進む一方で、経営の安定性や持続可能性をいかに確保するかが重要な課題となっています。
その中で注目されるのが「農業法人化」です。本稿では、若返りの流れを一過性で終わらせないための視点として、農業法人化と税務の論点を整理します。
1.なぜ今、農業法人化が進むのか
農業法人とは、株式会社や農事組合法人など、法人形態で農業を営む経営体をいいます。
法人化が進む背景には、次のような要因があります。
・経営規模の拡大と耕地集積
・事業承継の円滑化
・雇用型農業への転換
・資金調達の多様化
・収益の安定化
若手就農者が増えている地域では、単なる個人事業ではなく、組織的経営への移行が課題になります。特に高付加価値作物を扱う場合、設備投資や販路開拓のための資金調達が不可欠であり、法人化のメリットが顕在化します。
2.個人農家と法人の税務の違い
農業を個人で行う場合は所得税課税となり、事業所得として申告します。一方、法人化すれば法人税課税となります。
主な違いは次の通りです。
(1)税率構造
・個人:累進課税(最大45%)
・法人:法人税率は一定(中小法人は軽減税率あり)
所得が一定規模を超える場合、法人のほうが税率面で有利になるケースがあります。
(2)所得分散の可能性
法人では、役員報酬や従業員給与として所得を分散できます。家族経営においては、世帯単位での税負担調整が可能になります。
(3)損失の取扱い
法人は欠損金の繰越控除制度が明確で、将来の利益と相殺可能です。天候リスクの大きい農業においては重要な制度です。
3.法人化のメリット
(1)事業承継がしやすい
個人農家の場合、農地・機械・在庫などの移転は相続や贈与の問題を伴います。法人化していれば、株式の移転という形で承継が可能になります。
計画的な株式移転を行うことで、10年単位での事業承継設計が可能になります。
(2)資金調達力の向上
金融機関は、財務諸表が整備された法人のほうが信用評価を行いやすい傾向があります。設備投資型農業では特に重要です。
(3)雇用拡大への対応
若手人材を雇用する場合、法人形態のほうが労務管理や社会保険手続が制度上整っています。
4.法人化のデメリット・留意点
一方で、法人化には慎重な検討も必要です。
・社会保険料負担の増加
・赤字でも均等割が発生
・会計・税務コストの増加
・役員報酬の固定化による資金繰りリスク
特に、収益が安定しない段階で法人化すると、社会保険料負担が経営を圧迫する可能性があります。
5.農地制度との関係
農業は農地法の制約を受けます。法人で農地を所有・利用するためには、農地所有適格法人の要件を満たす必要があります。
出資者の構成、役員の過半が農業従事者であることなど、制度上の条件があります。法人化を検討する際は、税務だけでなく農地制度との整合性も重要です。
6.若返りと法人化の接点
今回の若返りの流れは、
・高収益作物への参入
・DX活用
・事業承継の前倒し
といった経営構造の変化と連動しています。
これらはすべて「個人の延長」ではなく、「組織経営」への移行を前提とした動きです。
若手が参入しても、経営基盤が弱ければ継続は困難です。法人化は、単なる税務上の選択ではなく、持続可能な経営構造への転換の一環として位置づけるべきです。
結論
農家の平均年齢低下は、日本農業にとって希望の兆しです。しかし、若手参入だけでは持続可能性は確保できません。
農業法人化は、
・税率構造の最適化
・所得分散
・事業承継の円滑化
・資金調達力の強化
といった観点から、若返りを経営の安定へとつなぐ重要な選択肢です。
一方で、社会保険料負担や制度要件などの課題も存在します。規模、収益構造、将来の承継計画を踏まえた総合的判断が必要です。
若返りを「数字の変化」で終わらせるのか、「経営構造の転換」に昇華させるのか。その分岐点に、農業法人化というテーマが位置しています。
参考
・日本経済新聞 2026年2月21日朝刊「農家の年齢、初の低下 平均67.6歳、27都府県で若返り」
・日本経済新聞 2026年2月21日朝刊「山梨、高級ブドウ 若手栽培 県、作業体験から就農・定着支援」

