賃上げ促進税制の計算において、最も基本でありながら実務上の誤りが多いのが「給与等支給額」の算定です。どの支給を含め、どの支給を除外するかによって、増加額や増加率が大きく変わり、結果として控除額にも直接影響します。
本稿では、給与等支給額の対象範囲と、実務上の判断ポイントを整理します。
給与等支給額の基本的な考え方
給与等支給額とは、従業員に対して支払われる給与や賞与などの総額を指します。
ただし、制度上は単なる会計上の給与総額とは異なり、
・対象となる従業員の範囲
・対象となる支給内容
が明確に限定されています。
このため、会計データをそのまま使用すると、制度上の計算とズレが生じる可能性があります。
対象となる給与の範囲
給与等支給額に含まれる主な項目は次のとおりです。
・基本給
・賞与
・各種手当(通勤手当、残業手当など)
これらは、通常の給与として支給されるものであり、制度上も対象となります。
対象から除外される項目
一方で、次のような項目は給与等支給額から除外されます。
① 役員に対する報酬
役員報酬は、従業員に対する給与とは区別されるため、原則として対象外となります。
② 退職金
退職金は一時的な支給であり、継続的な賃上げの評価対象とはならないため、除外されます。
③ 特定の一時的な支給
臨時的・例外的な支給については、制度趣旨に照らして対象外となる場合があります。
給与の範囲に関する実務上の論点
給与等支給額の計算においては、単純な分類だけでは判断できないケースが多く存在します。
① 手当の取り扱い
各種手当については、給与として扱われるかどうかの判断が必要です。
例えば、
・通勤手当
・住宅手当
・家族手当
などは原則として対象となりますが、支給方法や性質によって判断が分かれる場合があります。
② 現物給与の取り扱い
現物支給についても、給与として評価される場合には対象となる可能性があります。
ただし、その評価額や取り扱いについては慎重な判断が必要です。
③ 社会保険料や福利厚生費との区分
社会保険料や福利厚生費は、給与とは区分されるため、原則として対象外となります。
ただし、実務上はこれらが混在しているケースもあるため、明確な区分が必要です。
比較対象との整合性
給与等支給額は、前年度との比較によって増加額や増加率を算定します。
このため、
・前年度と同一の基準で計算する
・計算方法を統一する
ことが重要です。
実務上の注意点
・年度ごとに計算方法が異なる
・一部の項目だけ処理が変わる
といった場合、正確な比較ができなくなります。
典型的な誤りパターン
給与等支給額の計算においては、次のような誤りが多く見られます。
① 役員報酬を含めてしまう
役員報酬を誤って含めることで、増加額が過大となるケースです。
② 除外すべき項目を含めてしまう
退職金や一時的な支給を含めてしまうケースです。
③ 会計データをそのまま使用する
会計上の給与総額をそのまま使用することで、制度上の定義とズレが生じるケースです。
実務対応のポイント
給与等支給額の算定にあたっては、次の点を意識することが重要です。
・制度上の定義に基づいて再集計する
・対象・除外項目を明確に区分する
・前年度との比較方法を統一する
これにより、計算の正確性を確保することができます。
本シリーズにおける位置付け
本稿で整理した給与等支給額の考え方は、次回以降の計算論点に直接つながります。
特に、
・月数調整
・増加率の算定
・別表計算
において、基礎データとして使用されます。
結論
給与等支給額の算定は、賃上げ促進税制の計算における出発点であり、その正確性が制度適用全体に影響します。
単なる会計上の数値ではなく、
・制度上の定義
・対象範囲の適切な判断
に基づいて計算を行うことが不可欠です。
実務においては、対象・除外の整理を丁寧に行うことが、正確な制度適用につながります。
参考
東京税理士協同組合教育情報事業配布資料(全国統一研修会)「実務上の留意点と別表計算の設例確認」