賃上げ促進税制における企業区分の違いと制度設計の全体像

税理士
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賃上げ促進税制は、企業の賃上げを後押しする制度ですが、その適用内容はすべての企業に共通ではありません。令和6年度改正では、企業規模に応じて制度が再設計され、「大企業」「中堅企業」「中小企業」という区分ごとに異なる仕組みが採用されています。

この区分を正確に理解しないまま制度を適用すると、控除率や要件を誤る可能性があり、結果として税額に大きな影響を及ぼします。本稿では、企業区分ごとの制度設計の違いを整理します。


企業区分が重要となる理由

賃上げ促進税制では、企業規模に応じて

・適用要件
・控除率
・上乗せ措置
・繰越制度の有無

が異なります。

これは、企業規模によって賃上げの余力や人材投資の状況が異なるため、政策的に異なるインセンティブ設計が採用されているためです。

したがって、まず自社がどの区分に該当するのかを正確に把握することが、制度適用の出発点となります。


大企業向け制度の特徴

大企業向け制度は、最も厳格な設計となっています。

① 控除率の引き下げと段階化

令和6年度改正により、基本的な控除率は引き下げられています。一方で、賃上げ率に応じて段階的に控除率が上昇する仕組みが導入されています。

これは、一定水準以上の賃上げを行った企業に対して、より強いインセンティブを与える設計となっています。


② 上乗せ措置の重視

大企業では、単なる賃上げだけではなく、

・教育訓練費の増加
・認定制度の取得

といった追加的な要件を満たすことで、控除率が上乗せされる仕組みとなっています。

つまり、賃上げと人的投資を組み合わせた企業行動が求められている点が特徴です。


③ 公表要件の存在

一定規模以上の企業については、

・賃上げ方針
・取引先との関係

などの公表が求められる場合があります。

これは、大企業に対して社会的責任としての賃上げを促す政策的意図によるものです。


中堅企業向け制度の特徴

中堅企業は、令和6年度改正で新たに位置付けが明確化された区分です。

① 大企業より緩やかな要件

大企業と比較すると、賃上げ率の要件や控除率の設計がやや緩和されています。

ただし、中小企業ほどの優遇はなく、両者の中間的な位置付けとなっています。


② 上乗せ措置の活用が前提

中堅企業においても、

・教育訓練費
・認定制度

といった上乗せ措置の活用が制度設計の中心となっています。

したがって、単なる賃上げではなく、企業の成長投資と一体で制度を活用することが前提となっています。


③ 適用対象法人の判定が重要

中堅企業に該当するかどうかは、従業員数や資本関係などによって判定されます。

特に、グループ企業の場合には、

・支配関係
・従業員数の合算

といった要素が影響するため、形式的な規模だけで判断できない点に注意が必要です。


中小企業向け制度の特徴

中小企業向け制度は、最も利用しやすい設計となっています。

① 控除率の優遇

中小企業については、基本的な控除率が高く設定されており、比較的低い賃上げ率でも制度を活用することが可能です。

これは、中小企業の賃上げ余力を踏まえた配慮といえます。


② 上乗せ措置の柔軟性

教育訓練費や認定制度による上乗せ措置についても、適用要件が比較的柔軟に設定されています。

そのため、人材投資を行うことで、より高い控除率を実現することが可能です。


③ 繰越税額控除制度の活用

今回の改正により、中小企業では特に重要となるのが繰越税額控除制度です。

税額控除をその年度で使い切れなかった場合でも、翌年度以降に繰り越すことができるため、

・赤字企業
・税負担が軽い企業

でも制度を有効活用することができます。


企業区分の判定における実務上の注意点

企業区分の判定は、単純な資本金や従業員数だけで判断できるものではありません。

特に注意すべきポイントは次のとおりです。

① 支配関係の影響

グループ企業の場合、親会社や関連会社との関係により、

・従業員数の合算
・中小企業から除外

といった影響を受ける可能性があります。


② 従業員数の判定基準

常時使用する従業員数の判定にあたっては、

・雇用形態
・保険加入状況

などが影響するため、形式的な人数ではなく、定義に基づいた判断が必要です。


③ 制度選択の誤りリスク

企業区分を誤ると、

・本来より低い控除率を適用してしまう
・適用要件を満たさない

といったリスクが生じます。

これは税務調査においても指摘されやすいポイントです。


本シリーズにおける位置付け

本稿で整理した企業区分は、今後の各論の前提となります。

特に、

・控除率の計算
・上乗せ措置の判定
・繰越税額控除の適用

はすべて企業区分に依存するため、この理解が不十分なままでは正確な計算ができません。


結論

賃上げ促進税制は、企業規模ごとに異なる制度設計がなされており、その区分の理解が制度適用の出発点となります。

令和6年度改正により、この区分の重要性はさらに高まっており、

・自社がどの区分に該当するのか
・その区分でどの制度が適用されるのか

を正確に把握することが不可欠です。

制度の活用可否や控除額は、この最初の判断によって大きく左右されるといえます。


参考

東京税理士協同組合教育情報事業配布資料(全国統一研修会)「実務上の留意点と別表計算の設例確認」

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