少額投資非課税制度(NISA)の普及が進み、「貯蓄から投資へ」は一定の成果を上げつつあります。
2025年末時点でNISA口座は約2800万口座に達し、国民の約4人に1人が保有するまでになりました。
しかし、この数字をどう評価すべきでしょうか。
むしろ重要なのは、「まだ利用していない人が6割以上存在する」という事実です。
本稿では、資産形成の現状を整理したうえで、「これからの伸びしろはどこにあるのか」を考察します。
NISA普及の現状と到達点
まず現状を整理すると、資産形成は確実に広がっています。
30代ではNISA口座保有率が約36%、40代でも約33%に達しています。
さらに確定拠出年金(DC)を含めると、非課税制度の利用者は30代で約44%、40代で約40%と推計されます。
ここまで来ると、「投資は一部の人のもの」という段階はすでに過ぎています。
一方で、裏を返せば次のようにも言えます。
- まだ半数以上は活用していない
- しかも、その層は単純に「知らない人」ではない可能性が高い
ここに、これからの政策や実務の難しさがあります。
伸びしろはどこにあるのか
若年・低所得層という最大の未開拓領域
20代では、世帯年収300万円未満の層が4割を超えます。
この層はNISAの利用率が低く、最も大きな伸びしろとされています。
ただし、この層に対して「投資を始めましょう」と言うだけでは不十分です。
そもそも、
- 可処分所得が少ない
- 貯蓄余力が乏しい
- 将来不安が強い
という構造的な問題を抱えています。
本来、この層こそ「時間を味方にできる」最も有利な層であるにもかかわらず、制度の恩恵を受けにくいという逆説が存在しています。
30~40代は“制度の使い分け”が課題
現役世代の中心である30~40代では、別の問題が見えてきます。
それは、
- NISAだけ利用している人
- DCだけ利用している人
が一定数存在するという点です。
この層に対しては、金融教育よりもむしろ
- NISAとDCの役割の違い
- 併用することでの効果
といった「制度設計の理解」を促すことが重要です。
つまり、問題は知識不足ではなく「使い方の最適化」に移っています。
高所得層の未活用という盲点
意外に見落とされがちなのが、高所得層の未活用です。
投資余力があるにもかかわらず、非課税制度を使っていない層は一定数存在します。
この層には、複雑な説明よりも
- 長期・分散・積立という基本
- 税制優遇のシンプルなメリット
といった「王道の資産形成」を伝える方が効果的です。
過度な金融知識ではなく、むしろシンプルさが鍵になります。
高齢層では“制度移行”が課題
60代以降では、資産形成というより
- 旧NISAから新NISAへの移行
- 保有資産の見直し
が重要なテーマになります。
この層では「新規投資」よりも
- 既存資産の最適化
- 非課税枠の有効活用
といった観点が中心となります。
金融リテラシーだけでは限界がある理由
従来は「金融リテラシーの向上」が重視されてきました。
しかし、現状を見ると明らかです。
すでに一定数は制度を理解し、活用しています。
それでもなお残っている6割は、「理解していない人」だけではありません。
むしろ、
- 余裕がない
- 必要性を感じていない
- リスクを取りたくない
といった、合理的な理由で選択している可能性があります。
つまり、問題は「教育不足」ではなく、「前提条件の違い」にあります。
これからの資産形成政策に求められる視点
これから重要になるのは、一律のアプローチではなく「対象別の設計」です。
例えば、
- 若年・低所得層 → 少額でも始められる仕組み
- 現役世代 → 制度の併用と最適化
- 高所得層 → シンプルな王道の提示
- 高齢層 → 制度移行と資産管理
といったように、課題は層ごとに異なります。
「貯蓄から投資へ」というスローガン自体は一定の役割を果たしました。
これからは、その先の段階に入っています。
結論
NISAの普及により、資産形成は確実に広がりました。
しかし、その裏側には「まだ利用していない6割」が存在します。
そして、この6割は単純に取り込める層ではありません。
それぞれに事情があり、合理的な判断のもとで投資を選択していない可能性があります。
今後求められるのは、
「投資を広げること」ではなく「誰に、どのように届けるか」という視点です。
資産形成の議論は、量の拡大から質の設計へと移行しつつあります。
参考
日本経済新聞 2026年3月17日夕刊
貯蓄から投資への伸びしろ(十字路)

