経理の仕事は、数字を扱うだけではありません。
ときに、その数字の裏に隠れた「不正の兆候」を読み取ることが求められます。
仕訳ミス、経費の不正精算、架空取引、在庫操作…。
どれも小さなズレから始まり、放置すれば会社全体の信用を揺るがすことになりかねません。
近年では、生成AIを活用した不正検出(Fraud Detection)が注目されています。
AIが膨大なデータを高速で読み解き、異常値や不自然なパターンを瞬時にあぶり出してくれるのです。
第1章 AIは「違和感」を見つけるのが得意
経理担当者は経験的に「この数値、なんかおかしい」と気づくことがあります。
AIは、まさにこの“違和感”を定量的に見つけるのが得意です。
ChatGPTなどの生成AIを使えば、
膨大な仕訳データの中から「他と傾向が違う動き」を検出し、
その理由まで解説してくれます。
例えば、こんなプロンプトです。
【役割】あなたは不正検査の専門家です。
【内容】以下の仕訳データを分析し、不自然な取引や不正の兆候がないか確認してください。
【形式】①異常値検出の方法 ②検出リスト(重要度順)③各異常値の分析 ④追加確認事項
【制約】統計的アプローチと経験則の両面から分析し、誤検出を最小限にしてください。
AIは、「特定の社員だけ交通費が突出」「週末に大量の仮払金処理」など、
人では見逃しやすいパターンを提示してくれます。
第2章 AIによる“異常検出”の仕組み
生成AIが行う不正検出は、大きく3つのステップで構成されています。
| ステップ | 内容 | 経理での例 |
|---|---|---|
| ① データの整形 | 日付・金額・科目などをAIが理解しやすい形に変換 | 仕訳帳CSVをアップロード |
| ② パターン分析 | 平常値と比較して「異常」を判定 | 同部署・同期間との比較 |
| ③ 背景推定 | なぜ異常なのかを自然言語で説明 | 「在庫増=架空売上の可能性」など |
AIは単なる統計的な検出ではなく、「過去の事例に基づく説明」まで自動で生成できるのが特徴です。
これにより、経理部門のリスク察知能力が格段に高まります。
第3章 実務で役立つAIプロンプト活用例
① 経費精算の異常検出
【役割】あなたは内部監査の専門家です。
【内容】以下の経費精算データから、金額や日付の不自然な申請を抽出してください。
【形式】社員名・金額・日付・摘要・疑義コメントを表形式で出力。
【制約】通常平均額との差が30%以上のケースを優先してください。
→ 出力例:「出張旅費 12万円/同部署平均4万円」「休日申請あり」など。
② 仮払金の未精算チェック
【役割】あなたは経理の内部統制担当者です。
【内容】以下の仮払金データから、精算期日を超過している項目を抽出してください。
【形式】表形式(担当者・金額・発生日・経過日数・対応案)。
→ 「発生日から90日超」「精算理由未記載」などを自動抽出。
③ 不正リスクのレポート化
【役割】あなたは監査法人のシニアアナリストです。
【内容】AIが検出した異常取引リストをもとに、内部監査向けの報告書を作成してください。
【形式】概要・主要リスク3点・再発防止策の3部構成で。
これらのテンプレートを保存しておけば、定期監査・月次レビューでも再利用できます。
第4章 AIが示すのは「犯人」ではなく「兆候」
重要なのは、AIはあくまで「気づきの補助」をしてくれるだけで、
“誰が不正をしたか”を断定するものではないという点です。
AIが出した結果は「仮説」にすぎません。
その後の事実確認や聞き取りは、人の判断で行う必要があります。
このバランスを守ることが、AIを社内で安全に活用する第一歩です。
第5章 AI不正検出の導入ステップ
1️⃣ まずはスモールデータから試す
→ 1か月分の経費精算データなど、小規模で検証。
2️⃣ ルールの“再現性”を確認
→ AIが毎回同じ傾向を指摘するかをチェック。
3️⃣ 社内ルールと連携
→ 検出基準(例:金額閾値・期間)を社内規程に明文化。
4️⃣ 人によるレビュー体制を整備
→ AIが出した“疑わしい取引”を担当者が再確認。
この流れを整えることで、AI不正検出は「監査の補助」から「リスク管理の基盤」へと進化します。
まとめ:AIが守るのは「数字」ではなく「信頼」
AIが経理に導入される目的は、単なる効率化ではありません。
それは、会社の信頼を守ること。
AIが数字をチェックし、人が判断する。
この新しい協働の形こそ、これからの経理が進むべき方向です。
AIはもう、未来の話ではありません。
あなたの会社を、あなたのチームを、そして自分自身を守るために――
今こそ「AI監査力」を身につける時です。
🖋️出典:『企業実務 2025年6月号』
アクタス税理士法人 藤田益浩「経理業務の効率化を図る『生成AI』活用術」より再構成。
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。
