財務と税務は同じじゃない?「税効果会計」をやさしく解説

会計
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最近ニュースで「法人税収がバブル期以来の高水準」という見出しを見た方も多いのではないでしょうか。企業が稼いだ利益に税金がかかるのは当然ですが、実は「会計上の利益」と「税務上の利益」は必ずしも一致していません。この違いを調整する仕組みが「税効果会計」です。今回はその考え方を、身近な例を交えながら解説します。


財務会計と税務会計は別もの

企業の会計には大きく分けて2種類あります。

  • 財務会計:投資家や株主に向けて会社の業績や財政状態を報告するための会計。決算短信や有価証券報告書に使われます。
  • 税務会計:国に納める税金を計算するための会計。税法に基づき、「課税所得」を算出します。

両者は似ているようでいて、考え方が異なります。
たとえば「保守主義の原則」というルールが財務会計にはあり、「費用は早めに、収益は遅めに計上」することで楽観的な数字にならないよう戒めています。
一方、税務会計では「実際にお金を払った時点で費用にする」という考え方が基本です。


具体例:ボーナス引当金の場合

少し具体的にみてみましょう。
ある会社が1年目に売上100億円、利益30億円をあげたとします。
そのうち10億円は「来年支払うボーナスのための引当金」として費用に計上しました。

  • 財務会計上:費用70億円(うち10億円が賞与引当金)→利益30億円
  • 税務会計上:引当金はまだ支出していないので費用と認めない →課税所得40億円

税率30%とすると、実際の税額は12億円となり、財務会計の利益30億円に税率をかけた9億円とはズレが出てしまいます。

翌年、このボーナス10億円を実際に支払うと、逆の現象が起きます。
財務会計ではすでに引当金を費用計上しているので追加の費用はなし。
しかし税務会計では支払った年に費用化できるので、課税所得は減少。結果として税額は軽くなります。

つまり、財務会計の利益が同じ30億円でも、税額は年によって大きく変わってしまうのです。


税効果会計が必要な理由

投資家や株主から見れば、「利益30億円に税率30%をかければ9億円の税金でしょ?」と考えるのが自然です。
しかし実際の納税額はそうならない。これでは企業の収益力がわかりづらくなってしまいます。

そこで登場するのが税効果会計
ズレの部分を将来分に調整することで、「毎期の税金費用が利益×税率に近づくようにする」仕組みです。

上の例で言うと:

  • 1年目:ズレ10億円×税率30%=3億円を「繰延税金資産」として計上。結果、税金費用は12億円から9億円に。
  • 2年目:その繰延税金資産を解消し、税金費用を6億円から9億円に。

こうすることで、どちらの年も「税金費用=9億円」となり、見かけ上は利益30億円に30%の税率をかけた金額と一致するのです。


繰延税金資産のリスク

税効果会計の要となるのが「繰延税金資産」です。
これは「将来の税負担を軽くする権利」のようなもの。資産として計上できます。

ただし注意が必要です。
将来の利益(課税所得)が見込めなければ、この資産は意味を持ちません。業績が悪化した場合、繰延税金資産を取り崩す必要があります。

実際に、コニカミノルタは2025年3月期に米子会社の事業計画見直しにより140億円の繰延税金資産を取り崩しました。
また、大王製紙も中国事業の悪化により減損損失とあわせて繰延税金資産を取り崩しています。

こうした取り崩しは自己資本比率を悪化させ、経営に大きな影響を及ぼすこともあります。かつてのりそな銀行の例のように、公的資金の注入につながったケースもありました。


まとめ

  • 財務会計と税務会計は一致しない
  • 税効果会計はそのズレを調整して、利益と税負担を分かりやすくする
  • ただし繰延税金資産は「将来利益が出ること」が前提。見通しが悪ければ取り崩しが必要

「税効果会計」は難しそうに聞こえますが、本質は「利益と税金の関係を投資家に分かりやすく示す工夫」です。
数字の裏には企業の将来見通しや経営判断が反映されている――そんな視点で決算を眺めると、企業の本当の姿が見えてくるかもしれません。


👉参考:日本経済新聞「会計フォローアップ(3)税効果会計 財務と税務のズレ調整」(2025年9月18日付 朝刊)


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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