認知症は「避けられない老化現象」と受け止められがちです。しかし、最新の研究はこの常識を大きく揺さぶります。
日本人を対象にした調査により、認知症の約4割は生活習慣や治療によって予防できる可能性があることが示されました。
本記事では、その研究内容を整理しつつ、私たち一人ひとりがどこから手を付けるべきかを考えます。
日本人データで示された「予防できる認知症」
今回の研究は、東海大学医学部と、コペンハーゲン大学認知症センターが共同で行い、英医学誌ランセットに掲載されました。
特徴的なのは、日本の国民健康・栄養調査や政府統計、疫学研究など、日本人のデータのみを用いて分析した点です。
世界的な研究はこれまでも存在しましたが、日本人に特化した定量的分析は初めてとされています。
14の危険因子と「集団寄与危険割合」
研究では、ランセット委員会が認知症の危険因子として整理している14項目を対象としました。
主な項目は以下のとおりです。
- 高血圧
- 肥満
- うつ
- 運動不足
- 喫煙
- 難聴
- 視力低下
- 社会的孤立
- 高LDLコレステロール血症 など
これらは、投薬や補聴器の使用、生活習慣の改善などにより、治療やリスク低下が可能な因子です。
研究では、それぞれの因子について
「もし完全に解消できた場合、認知症をどの程度防げるか」
を示す集団寄与危険割合を算出しました。
最も影響が大きかったのは「難聴」
結果として、認知症発症に最も影響が大きい因子は難聴(6.7%)でした。
仮に、加齢性難聴のある人が全員、補聴器などで聴力を改善できた場合、認知症患者は6%超減少する計算になります。
続いて影響が大きかったのは、
- 運動不足(6.0%)
- 高LDLコレステロール血症(4.5%)
でした。
これら上位3項目だけでも、かなりの割合を占めていることが分かります。
「4割予防可能」という数字の意味
14項目すべての集団寄与危険割合を合計すると38.9%となり、理論上は認知症の約4割が予防可能と結論づけられました。
重要なのは、この数字が「特別な治療」ではなく、
- 早期受診
- 生活習慣の見直し
- 適切な医療・福祉サービスの利用
といった、比較的現実的な対策の積み重ねによって得られる点です。
高齢化社会と予防のインパクト
日本では認知症患者数が増加を続けています。
2022年時点で約443万人、2050年には586万人、2060年には645万人に達すると推計されています。
今回の研究では、14の危険因子に該当する人を
- 一律で10%減らせば:約20万8,000人減
- 一律で20%減らせば:約40万8,000人減
という具体的な試算も示されました。
これは医療・介護費用、家族の介護負担、地域社会への影響を考えても、極めて大きな意味を持ちます。
日本で特に遅れている「難聴対策」
注目すべきは、難聴対策の遅れです。
日本では、加齢性難聴を自覚しても医療機関を受診する人は4割未満、補聴器の使用率は約15%にとどまっています。
背景には、
- 年を取れば耳が遠くなるのは仕方ない
- 補聴器への心理的抵抗
- 費用負担への不安
といった要因があります。
しかし、今回の研究は「難聴を放置すること自体が、将来の認知症リスクを高める」ことを、日本人データで明確に示しました。
結論:予防は個人と社会の両輪で
認知症予防は、個人の努力だけで完結する話ではありません。
一方で、何もしなければ防げない未来があることも事実です。
難聴、運動不足、脂質異常といった身近なテーマから対策を進めることは、
本人の生活の質を守るだけでなく、家族や社会全体の負担軽減にもつながります。
今回の研究が示したのは、
「認知症は備えることができる時代に入った」
という、重要なメッセージだと言えるでしょう。
参考
- 日本経済新聞
「認知症4割、予防できる 難聴や運動不足改善なら」 - The Lancet
認知症の危険因子に関する委員会報告 - 厚生労働省
認知症患者数の将来推計に関する公表資料
という事で、今回は以上とさせていただきます。
次回以降も、よろしくお願いします。

