認知症と資産凍結 ― 家族で備える「判断力低下後のマネー対策」

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高齢化の進行とともに、認知症により本人の判断能力が低下した場合の「資産凍結」リスクが現実的な課題になっています。預貯金や有価証券の口座が本人名義のままでは、家族であっても自由に引き出したり、売却したりできません。
こうした状況を避けるため、金融機関や行政による新たな制度やサービスが整備されつつあります。今回は、証券会社などが提供する「家族サポート証券口座」などの仕組みと、家族でできる備え方について解説します。

1. 判断力低下で「資産凍結」が起こる理由

認知症などで本人の判断能力が低下すると、銀行口座や証券口座は原則として取引が停止されます。家族であっても、預金の引き出しや株式の売買、不動産の処分などは認められません。
本人の意思確認が困難なため、金融機関は法的なトラブルを避けるために取引を止めるのです。この状態が長引けば、医療費や介護費を家族が立て替えることになり、家計にも負担が生じます。

2. 成年後見制度という選択肢

国が用意している代表的な仕組みが「成年後見制度」です。
家庭裁判所が後見人を選任する「法定後見」では、親族以外の専門職(司法書士や弁護士など)が選ばれる場合も多く、本人や家族の希望が必ずしも反映されるとは限りません。
一方、「任意後見」は本人が元気なうちに後見人を指定する方式ですが、発効には家庭裁判所の監督人を付ける必要があります。いずれの制度も、後見人の主な役割は資産の保全であり、株式売買などの運用判断は制限されます。

3. 有価証券のための新しい仕組み ― 家族サポート証券口座

判断能力が低下しても有価証券の取引を継続できるようにする新制度が「家族サポート証券口座」です。日本証券業協会が2025年2月に要綱を公表し、地方証券会社が相次いで導入しています。
本人が元気なうちに代理人を登録し、公正証書で契約を結んでおくと、認知症発症後も代理人が売買を続けられます。売却・出金だけでなく、本人の希望に応じて買い付けも可能です。

この制度の目的は、本人が介護や入院などで資金を必要とする場合に円滑に現金化できるようにすることです。
同時に「資産寿命を延ばす」という視点も重視され、保有資産のバランスを見直すなど、リスクを抑えた運用が認められています。ただし、新たな資金を追加したり、投資範囲を超えた取引をすることはできません。

4. 証券会社ごとの対応

証券各社でも独自の代理取引制度を整備しています。
マネックス証券の「たくす株」は、本人の意思で事前指定した銘柄を代理人が取引できる仕組みです。信託会社が管理・運営し、資産の減少を防ぐため銘柄の入れ替え目的の買いも認めています。
楽天証券では「家族信託サービス」を展開し、投資信託や債券の購入が可能です。
大和証券は判断能力が低下した時点で発効する「予約型代理人制度」を導入しており、代理人が売却や出金を行えます。

5. 家族でできる「資産の棚卸し」

制度を活用する前に、まず自分や家族の財産を整理しておくことが大切です。
預貯金・不動産・有価証券などを一覧にし、金額と内訳を把握します。そのうえで、「どの資産について凍結を避けたいのか」を検討します。
証券資産だけであれば代理取引サービス、不動産を含めるなら任意後見や家族信託など、目的に応じて制度を選ぶことができます。
また、親子間で財産の状況を共有することも重要です。資産が凍結すると医療費や介護費を子が負担する事態になりかねません。直接聞きにくい場合は、質問を手書きで渡し、回答を記入してもらうなどの工夫も有効です。

6. 増える認知症患者と家族の責任

厚生労働省の推計では、認知症患者数は2040年に584万人と、2025年の472万人から約24%増える見込みです。
「資産の管理・運用」は本人だけでなく家族にも関わるテーマになりつつあります。制度やサービスの選択肢を早めに理解し、元気なうちから契約・準備を進めておくことが、家族全体の安心につながります。

結論

認知症による資産凍結は、本人の生活と家族の家計の双方に影響を及ぼします。
成年後見制度や証券会社の代理取引制度など、選択肢は広がっていますが、どの方法にも限界があります。
重要なのは「元気なうちに整理・契約を済ませておくこと」です。財産を棚卸しし、家族で共有し、将来の判断能力低下に備える。これが、長寿社会における現代的なマネーリテラシーの一部といえるでしょう。


出典
・「〈マネー相談 黄金堂パーラー〉認知症、契約で備え(上) 証券サービス」日本経済新聞、2025年11月5日夕刊
・「まず財産を棚卸し」日本経済新聞、2025年11月5日夕刊


という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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