認知症とお金の備え方:預金凍結を防ぐ銀行サービスの活用法

FP
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認知症による資産凍結のリスクが注目されるなか、預金口座をどう管理し、必要な時にどう使うかが多くの家庭の関心事になっています。医療費や介護費など生活に欠かせない支出を確保するためには、本人が元気なうちから「契約による備え」をしておくことが欠かせません。近年は、銀行が提供する「予約型代理人サービス」など、手軽に利用できる制度も広がっています。

1. 事前に備える「予約型代理人サービス」

多くの銀行が導入しているのが、予約型代理人サービスです。
本人がまだ元気なうちに家族などを代理人として銀行に届け出ておくことで、将来、本人の判断能力が低下しても代理人が預金の入出金や解約などを行えるようになります。

手続きは本人が印鑑や本人確認書類を持って窓口に出向く形で行い、通常は1回の訪問で完了します。代理人に指定できるのは、配偶者・子ども・兄弟姉妹・孫など2親等以内の家族が基本です。
代理権が発効した後は、本人のキャッシュカードは利用停止となり、代理人による取引は原則として窓口対応に限られます。ATMでの出金や振込はできません。

手数料は無料の銀行が多く、たとえば三菱UFJ銀行などでは利用料がかかりません。本人の医療費や介護費、生活費など「本人のための支出」に限定して使えることが特徴で、資産運用などの目的では利用できません。

2. 代理人キャッシュカードとの違い

似た制度として「代理人キャッシュカード」がありますが、これは本人に判断能力があることが前提です。
病気や入院、介護施設入居などで外出が難しい場合に、家族がATMで入出金や振込を代行できる制度であり、契約時点から有効になります。
ただし、本人が認知症と診断され銀行が意思確認ができないと判断すると、このカードは利用できなくなる点が異なります。

3. 予約型がない銀行の場合の対応

もし利用している銀行に予約型代理人サービスがない場合は、まず銀行窓口に相談しましょう。
全国銀行協会は2021年に、認知症の本人に代わる家族の引き出し依頼に「柔軟に対応するよう」各行に求める指針を示しています。
相談時には、本人の通帳・キャッシュカード、本人との関係を示す書類、診断書、請求書などを持参するのが望ましいです。
たとえば三井住友銀行では「一律に取引停止にはせず、個別事情に応じて判断する」としています。

4. 信託商品での備えも選択肢

もう一つの方法が、銀行の信託商品を活用することです。
りそな銀行の「ハートトラスト」では、あらかじめ指定した家族が医療費や介護費の支払いに限って資金を引き出せます。請求書や領収書を窓口で確認する仕組みで、信託金額は50万~500万円、設定費用は5万5000円です。

三井住友信託銀行の「人生100年応援信託(100年パスポート)」は、医療・介護のほか住居費や税・社会保険料の支払いにも対応します。信託金額は500万円からで、設定時に信託金額の1.1%、その後は月5500円の管理費が発生します。

オリックス銀行の「eダイレクト家族信託」は、ネット完結型で16万5000円の費用がかかりますが、本人が選んだ家族が財産を管理する民事信託を支援します。使途確認は行いませんが、希望に応じて「受益者代理人」を置き、チェック機能を持たせることができます。

5. 手軽さと管理コストのバランス

資産凍結を避けたい対象が預金だけであれば、予約型代理人サービスが最も使い勝手が良いといえます。
契約時の手間や費用が少なく、必要な資金を確保しやすいためです。
一方、家族信託や任意後見は専門家を通じて契約書を作成する必要があり、家族信託で数十万円から、任意後見で15万円程度が目安です。任意後見では家庭裁判所が選任する監督人の報酬も別途かかります。

6. トラブルを防ぐためのポイント

予約型代理人サービスを利用する際には、他の相続人の合意を得ておくことが重要です。
資金の使い道をめぐる誤解を避けるため、医療費や介護費などの支払いに使った領収書や請求書は必ず保管しておきましょう。
本人のために使ったことを記録しておくことで、後の相続で遺産額をめぐる争いを防ぐ効果があります。

結論

認知症への備えは、「本人が元気なうちに始める」ことが最大のポイントです。
預金凍結を防ぎ、本人の生活を守るためには、まず取引銀行で代理人サービスの有無を確認し、家族と話し合いながら手続きを進めましょう。
信託商品や家族信託なども選択肢ですが、預金管理に限るなら予約型代理人サービスが手軽で実用的な手段といえます。
本人の意思を尊重し、家族全員で合意形成をしておくことが、安心して老後を迎えるための第一歩です。

出典

  • 〈マネー相談 黄金堂パーラー〉認知症、契約で備え(下)銀行サービス:日本経済新聞(2025年11月12日)
  • 「相続人全員の合意が大切」:日本経済新聞(2025年11月12日)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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