訪問看護を取り巻く制度構造 医療保険と介護保険の境界がもたらす課題

FP
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訪問看護の「過剰提供」が問題となる背景には、単なる事業所側の不適切な運営だけでなく、日本の医療保険・介護保険制度そのものが抱える構造的な課題があります。
特に、医療保険・介護保険の“使い分け”や、サービス単価の違いが、実際のサービス提供に影響を与えるケースが増えています。

シリーズ第2回では、訪問看護を取り巻く制度構造を整理し、なぜ訪問看護の利用が急増し、財政圧力が強まっているのかをわかりやすく解説します。

1.訪問看護は「医療」と「介護」の境界に立つサービス

訪問看護の最大の特徴は、医療保険でも介護保険でも利用できるという点です。

■ 介護保険

  • 要支援・要介護認定が前提
  • 利用者負担は1~3割
  • ケアプランに基づき回数を調整

■ 医療保険

  • 末期がん、難病、重度疾病などが対象
  • 医師の指示書が必要
  • 時間・回数の制限に幅がある

この“二重構造”は柔軟性がある反面、制度のすき間を利用すれば、医療保険優先で高単価の訪問を繰り返すことも可能です。


2.訪問看護の利用が急増した背景

① 高齢者住宅との相性の良さ

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、有料老人ホームなど、医療ニーズが高い高齢者が多く入居する住宅が増えました。

  • 一つの建物に高齢者が多数入居
  • 訪問しやすく“効率化”が可能
  • 看護ニーズのある入居者が多い

この環境は訪問看護の利用拡大に拍車をかけました。

② 医療保険の単価が高い構造

訪問看護は医療保険のほうが介護保険より単価が高いケースが多く、事業所にとって収益性が高くなりやすい傾向があります。

そのため、

  • 医療保険の対象となる疾病名
  • 医師の指示書の内容
  • 訪問回数の設定

といった要素が、経営インセンティブと直結する場面が出てきています。

③ 在宅医療推進政策

国は病床削減と地域包括ケア推進のため、在宅医療を拡大してきました。

  • 急性期病床削減
  • 在宅療養の整備
  • 訪問診療・訪問看護の拡大

政策目的のもと、訪問看護の利用が増えたのは自然な流れですが、その陰で“必要以上の利用増”も同時進行しました。


3.財政構造から見た課題

訪問看護に限らず、介護保険・医療保険の財政は限界に近づきつつあります。

■ 医療保険

  • 高齢者医療費が増大
  • 訪問診療・訪問看護の伸びが顕著
  • 医療費全体の伸びが止まりにくい

■ 介護保険

  • 人口減少で支える側が減少
  • 利用者拡大と人件費上昇で逼迫
  • 保険料の増加が続く

制度が複雑に重なり合う結果、

➡「どちらの保険を使うか」によって、財政負担が大きく変わる

という問題が発生しています。

医療保険の訪問看護が増えると、

  • 健康保険財政の悪化
  • 診療報酬抑制圧力の上昇

につながり、今回のような報酬見直しに直結します。


4.なぜ「過剰提供」が起こりやすいのか

制度の構造上、以下のような誘因が生まれます。

■ 医療保険の方が単価が高い

→ 医療保険で訪問回数を増やすほうが事業所にとってメリットが大きい。

■ 同一建物訪問の仕組み

→ 多数の利用者がいれば“効率よく”訪問できる。

■ 訪問回数の明確な上限が少ない

→ 医師の指示と事業所判断で訪問頻度を増やしやすい。

これらの制度上の特徴が重なると、「必要以上の訪問」が発生しやすくなります。


5.2026年度以降の制度改革に向けて

厚労省は2026年度診療報酬改定に加え、中長期的には以下の改革が議論されています。

  • 医療・介護の報酬体系のさらなる整理
  • 医療保険の訪問看護の要件厳格化
  • 在宅医療のガイドライン整備
  • 過剰サービスのモニタリング強化

訪問看護を「必要な人に必要なだけ」提供する仕組みをどうつくるかが、今後の制度改革の焦点となります。


結論

訪問看護の急増や過剰提供は、一部事業所の問題というより、制度そのものが抱える構造的課題の表面化といえます。
医療保険と介護保険の境界が複雑であるほど、インセンティブの歪みが生じやすく、財政への圧力も高まります。

2026年度の診療報酬改定は、こうした制度構造の歪みを是正する大きな一歩です。今後は、訪問看護を支える人材の確保、地域ごとの医療資源の偏りへの対応など、より広い視点での改革が求められます。

訪問看護は、在宅で過ごしたい高齢者にとって必要不可欠な存在です。
持続可能な制度設計を進めつつ、質の高いサービスをどう守っていくかが、これからの日本の医療・介護政策の重要テーマとなります。


出典

  • 日本経済新聞「過剰な訪問看護是正 厚労省が診療報酬下げへ」(2025年11月29日 朝刊)

という事で、今回は以上とさせていただきます。

次回以降も、よろしくお願いします。

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